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科学技術立国の明確な構想を

2009年12月18日 (金)

 高齢者医療制度の負担軽減策では、凍結していた70~74歳の患者負担割合の引き上げ(1割から2割)などの措置凍結を、来年度も引き続き継続するための経費として2902億円を充てた。

 文科省予算では、7億円を計上してiPS細胞を再生医療や臨床研究に迅速に利用できるよう、数種類の細胞を保管する「iPS細胞バンク」の構築に取り組む。

 このほか、救急医療を行うために必要な、最先端医療機器を国立大学付属病院に整備するための経費82億円、医学部定員増に伴う教育環境の整備費24億円を盛り込んだ。

 次期薬価制度改革のアウトラインが、ほぼ見えかけてきた。国や中央社会保険医療協議会、製薬団体の動きから、通常の薬価改定に加え、長期収載品の薬価を一律2%引き下げる一方で、ドラッグラグ解消や未承認薬開発の促進などを目的とした「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」を試行的に導入するのが基本ラインとなる様相を呈してきた。

 今回の薬価改正による財源4800億円に、医療機器・材料の引き下げによる200億円を加えた5000億円は、診療報酬に充てられる。

 とはいえ、救急医療の充実や、小児科・産科の適正評価、勤務医の環境を改善して医療崩壊を食い止めるには、5000億円の財源だけで賄えるとは到底考えられない。その不足分を、長期収載品のさらなる引き下げで補う可能性も残っており、製薬企業にとっては,まだまだ予断を許さない状況が続くだろう。

 次期薬価制度改革の方向性からも、先発医薬品企業の生き残りは、新薬をいかに継続的に上市できるかにかかっている。

 長期収載品に関しては、先月、政府の行政刷新会議ワーキンググループが実施した事業仕分けで、「長期収載品をジェネリックと同じ薬価まで引き下げればよい」という意見が出されたのは記憶に新しい。

 また、事業仕分けの科学技術をめぐる予算の論議で、「スパコンの性能で世界一を目指す理由は何か。2位ではだめなのか」という、与党議員の発言が物議を醸した。

 国民の目に見える形で、天下りの見直しや、無駄の排除に取り組む新政権の試みは評価されるだろう。だが、いずれの発言も、産業育成について全く考えていないと指摘されても弁解の余地はないだろう。残念ながら今回の事業仕分けには、日本の成長戦略が全く見えてこない。

 資源を輸入に頼る日本が、世界で生き残るための一つの方向として、世界最高水準の科学技術を生み出していく「科学技術立国」が目指されてきた。製薬産業が、この科学技術立国となるための重要な産業の一つであることはいうまでもない。

 民主党はこれまで、研究分野を重視する姿勢を見せてきた。長妻昭厚生労働大臣も9日の会見で、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の試行的導入について、「製薬企業が適切な利益と適切な新薬創出の開発費を確保することは重要」との認識を示している。

 では、新しいイノベーション創出やビジネス展開において、どのような環境整備が必要となるのか。政府機関による研究開発をアシストするインフラ整備の促進、後期および市販後臨床試験の実施体制の充実などは欠かせない。

 特に、日本のバイオベンチャーの育成は、海外に比べて遅れが目立つ。世界的にも、大手製薬企業は、新薬シーズのソースをバイオベンチャーに求めている傾向が強く、政府が提唱する内需拡大を推し進めるにも、国内でのバイオベンチャー育成は急務だろう。

 日本が科学技術立国としての確固たる地位を確立するには、まず、国は産官学が連携を促進させ、革新的な医薬品創出に取り組むための、的確なビジョンを明確に打ち出すことが不可欠である。



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