厚生労働省健康局結核感染症課は、カルバペネムを含む広域β‐ラクタム薬を分解する酵素「ニューデリー・メタロ‐β‐ラクタマーゼ1(NDM‐1)」を産生する、新型の多剤耐性菌の感染事例が、インドやパキスタンで増加しているとの報告を受け、注意を促す事務連絡を都道府県担当部局に示した。国内で感染疑い事例が発生した場合には、国立感染症研究所へ照会するよう呼びかけている。
NDM‐1は、酵素の活性中心に亜鉛を持つため、メタロ‐β‐ラクタマーゼ(MBL)に属する。NDM‐1産生株について調べられたところでは、国内未承認のチゲサイクリンやコリスチン以外の、広域β-ラクタム系抗菌薬やフルオロキノロン系、アミノ配糖体系など、ほとんどの抗菌薬に高度耐性を示すことが報告されている。
問題を深刻にしているのは、NDM‐1を保有する菌株として、一般感染症の起炎菌としても頻度の高い大腸菌や肺炎桿菌の割合が高いこと。NDM‐1はプラスミド接合で伝達されるため、今後、市中に広がる可能性も懸念され、世界的に大きな健康問題を引き起こすことが危惧されている。
事務連絡では、産生株の検出と解析について、大腸菌や肺炎桿菌でカルバペネム系、フルロキノロン系、アミノ配糖体系の全てで「耐性」と判定された株が分離された場合、NDM‐1産生株の可能性を考慮し、SMAディスクによる検査などを実施するよう求めている。
SMAディスク検査で陽性と判定された株に対しては、PCR検査を行ってIMP‐1型、VIM-2型のMBL遺伝子を検出し、判定する。SMAディスク検査で陽性と判定されたにもかかわらず、PCR検査で陰性と判定された株については、「国立感染症研究所の細菌第2部に、詳しい検査や解析について、相談することができる」としている。
さらに、NDM‐1産生株が検出された場合の対応として、次の4項目を示している。
(1)患者を個室管理し、標準予防策、接触感染予防策を励行し、他の患者に伝播しないよう感染予防対策を実施。
(2)NDM‐1産生株が便や喀痰などから検出されたものの、感染徴候が認められない無症状病原体保有者の場合は、抗菌薬による除菌は行わず、標準予防策、接触感染予防策を励行しつつ、やがて消失するのを待つ。
(3)NDM‐1産生株による感染症を発症した患者の場合は、患者の病状を考慮して、抗菌薬療法を含む積極的な治療を実施。
(4)患者の海外渡航歴および渡航先での医療機関の受診歴を詳細に聴取する。