肺癌治療薬「イレッサ」の副作用をめぐる訴訟で、国が裁判所の和解勧告を拒否したことを受け、厚生労働省は1月28日、今後の薬事行政の政策的対応として、▽抗癌剤副作用死を対象とする副作用被害救済制度の検討▽薬事法改正などによる医薬品安全対策の強化▽抗癌剤の副作用に関するインフォームドコンセントの徹底▽イレッサの適正な再審査の検討――などに取り組むことを明らかにした。いずれも、原告側が求めていたもので、細川律夫厚労相は、「癌と闘う患者の立場に立って、全力を挙げて取り組んでいきたい」とした。
抗癌剤は、国の医薬品副作用被害救済制度の対象外。そのため、原告側は抗癌剤による副作用被害に対する救済制度の創設を求めていた。
ただ抗癌剤は、他の医薬品と比べて重い副作用が出る確率が高い上、癌患者の副作用は、原因が抗癌剤によるものか、疾患によるものかの判断が難しい。そのため、制度上救済に必要な仕組みを、具体的にどのようにして作るかが課題となっている。
厚労省も「議論すべき論点が多い」ことから、「今の制度にこだわらず、どういう制度が望ましいか、広く議論を進めたい」との意向を示し、与党にも検討を求めている。また、検討の結果、合意の可能性があれば、2012年度通常国会に提出予定の薬事法改正案と併せて措置することも視野にある。
薬事法改正などによる医薬品安全対策の強化では、薬害肝炎検証検討委員会がまとめた最終提言に基づき、制度改正を行う。最終提言では、医師や薬剤師など、医療関係者の薬害再発防止のための責務などを薬事法に明記することや、添付文書の位置づけを見直し、医療機関から患者に情報が伝わる仕組みの構築などを求めており、12年度通常国会に薬事法改正案を提出するスケジュールを示した。
患者にどれだけイレッサの副作用情報が伝わっていたかということが、裁判で大きな論点となったため、患者と医師との信頼関係を基礎とした癌医療体制の整備も行う。具体的には、医師にインフォームドコンセントの徹底を図る。
がん対策推進協議会では、次期「がん対策推進基本計画」の策定を進めており、厚労省は、「そこにどう含めていくのかということもある」とし、基本計画に盛り込むことも想定し、検討を進める考えだ。
イレッサの再審査の検討については、アストラゼネカから再審査の申請が提出されていることを受け、適用範囲に関して、「承認後に得られた科学的知見を精査し、審議会の意見も聴いた上で、適切に審査する」とした。
原告側は、イレッサの再審査に当たり、適応をEGFR遺伝子変異陽性者に限定することなどを求めており、それを踏まえた対応。