国は、在宅医療の推進に向けて盛んに旗を振っている。厚生労働省は今年を「在宅医療・介護あんしん2012」と位置づけ、2025年の医療・介護体制を見据えた施策を提示した。先日も、厚労省内の各局が連携する「在宅医療・介護推進プロジェクトチーム」を設置し、中長期的な施策と工程表を検討することを明らかにした。
少子高齢化を背景に増え続ける医療費をいかに抑制するか――。在宅医療の推進にはそんな狙いがある。医療提供体制の見直し、入院期間の短縮、外来診療の拡充、ジェネリック医薬品の使用促進なども同じ文脈で語ることができる。この大きな流れは今後さらに強まるだろう。
この動きに薬局はどう対応しているのか。全国平均で約8割の薬局が在宅患者訪問薬剤管理指導料の届け出を行っている。しかし、このほど示された厚労省の「薬局のかかりつけ機能に係る実態調査」によれば、同指導料などの算定実績がある薬局は2割にも満たない。在宅医療への薬局の参画はまだ不十分だ。
現状のままでは、地域によっては薬剤師抜きで在宅医療の体制整備が進められてしまう懸念がある。あるいは、薬剤師が参画しても、その役割が薬の配達や供給だけにとどまってしまう可能性もなくはない。追い風が吹くうちに足場を固める必要がある。
在宅医療への薬局の参画が進まない要因として「医師から訪問の指示がこない」などの声を薬局薬剤師から聞く。在宅医療では、医師や看護師、ケアマネージャー、ヘルパーなど人と人とのつながり、多職種によるネットワークが重要な意味を持つ。そのつながりなしに、いきなり指示を得ようとしても難しい。
地域の人的なネットワークにいかに加わっていくかが鍵になる。在宅医療の研修会に足を運び、人間関係を構築するのは一つの手段だ。また、薬局に来る目の前の患者に着目し、▽認知症の兆候を捉えて医師にフィードバックする▽薬を取りにくる家族に患者の状況を確認する▽しばらく薬局に姿を見せない患者の自宅に電話して現況を尋ねる――などのアプローチも有効ではないか。受け身でなく能動的な働きかけが重要だ。
一旦、人的ネットワークに入り込んでしまえば、日々顔を合わせるうちにそのつながりは強くなり、地域医療を支えるスタッフの一人として認知される。それは薬剤師の財産になるし、他地域からの薬局の参入を阻む壁としても機能する。いち早く人間関係を築いた者が優位に立つのだ。
病院薬剤師は、院外処方箋発行を機に病棟に進出し、職能を伸ばした。同じ構図が在宅医療にも当てはまる。患者に近い位置で業務を担い続けていれば、薬局薬剤師の資質向上や職能拡大につながる。在宅医療で得た経験は、薬局内での業務にも生きるはず。仮に採算に合わなかったとしても、今はとにかく足を一歩前に踏み出す時だ。