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データ改ざん問題、真相解明が先決

2013年09月06日 (金)

 ノバルティスファーマの降圧剤バルサルタン臨床研究のデータ改ざん問題を受け、厚生労働省は原因究明と再発防止に向けた大臣直轄の検討会を立ち上げ、これまで2回の議論を終えた。だが、これまでの検討会で真相に近づいたとは言えないだろう。

 臨床研究に関わったキーマンであるノバルティス元社員の聴取も実施されず、最大の焦点とされる「誰が、どの段階で、なぜデータを操作したのか」という疑問は全く解消されていない。データ改ざんが行われた背景は少しずつ見えてきたものの、その原因は明らかになっていないのが現状だ。

 確かにこれまでの検討会では成果もあった。ノバルティスから多額の奨学寄付金が臨床研究の実施に合わせて大学に提供されていた事実や大学側のずさんなデータ管理の実態が明るみに出たり、データセンターの役割を担った「神戸CNS」の人物を特定し、「データを各大学に毎月送付していた」との証言を得ていたことも分かった。

 ただ、ノバルティスは会社ぐるみの関与を否定し、大学側の主張と真っ向から対立したまま事態は動いていない。それにもかかわらず、厚労省は2日の検討会で、今後のスケジュールについて「次回の検討会を30日に開き、いったん中間取りまとめを行いたい」との意向を示した。田村憲久厚労相の指示を受けたものだが、一向に真相解明が進まない中での唐突な幕引きムードには、当然委員から反発が出た。

 山本正幸委員(かずさDNA研究所所長)は「誰がデータに触っていたのか、何が起こっていたかが最も気になるところなのに、中間まとめを前提にした進め方は疑問だ」と厳しく批判した。

 桑島巌委員(臨床研究適正評価教育機構理事長)も「法的措置に持っていく中で刑事告訴を踏まえた議論を行ったほうがいい」と業を煮やした様子で検討会の方向性に注文を付けた。

 これは検討会を仕切る森嶌昭夫委員長(名古屋大学名誉教授)の力不足によるところが大きいのではないか。実際の議事進行にも疑問符がつく場面があった。ヒアリングの場で「奨学」寄付金を「少額」と聞き間違え、要領を得ない追及に終始したほか、「権限のない検討会で原因を究明するには限界がある」と真相解明に消極的な印象を与えた。

 今回、データ改ざんという日本の臨床研究を揺るがす事態が明るみに出た以上、もはや真相を解明しない限り、再発防止策を立てることは難しいだろう。うやむやなまま、再発防止策だけを決めて幕引きを図ったとしても、社会からの厳しい批判を招くのは必至だ。

 いま多くの国民ばかりか、世界が検討会の議論を注目している。しかし、今のところ検討会はどこを向き、何をしようとしているのか見えてこない。真相解明が検討会で難しいのであれば、別途議論の場を設けることを模索するなど、もっとスピード感のあるアクションを取り、それを社会に示していくべきだ。まだ日本の臨床研究への信頼が大きく傷ついたままだということを深刻に受け止めなければ、取り返しのつかない事態を招きかねない。



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