医療情報の標準化が進みそうな機運が高まっている。国内の大手電子カルテベンダーが厚生労働省の規格にデータを標準的に保存できる機能を搭載し始めたことが大きな背景にあるが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が2016年度から、世界規格のCDISC標準で申請データを電子的に提出するよう製薬企業に義務づけることも追い風となっている。
既にFDAは04年7月、臨床試験データの申請には、CDISCの申請用モデルであるSDTMを使うよう“推奨”するガイドラインを発出。こうしたFDAの強い意向に呼応するように、製薬企業側は将来的な義務化も見据え、社内データベースのCDISC対応を進めた。規制当局と製薬企業が暗黙の了解のもと、お互いのメリットを計算済みで対応してきた経緯がある。
その後、多くのCDISC標準モデルが開発され、整合性が確認され始めた07年頃には「いずれ日本でもPMDAがCDISC標準のデータ提出を要求するだろう」との観測が出ていた。ようやく日本でも米国から10年遅れで世界標準の採用を決断した格好となった。
一方、CDISCの活動は拡大の一途をたどっている。日本における申請対応での混乱を横目に、次のステップとして医療情報システムとの連携に注目が移っている。FDAがCDISC標準を推奨した当時、医療機関の電子カルテと臨床試験データを電子的に集めるEDCの連携は、米国でもほとんど進んでおらず、「電子カルテの普及している日本が世界標準を取れる」との声もあった。
ところが、国内では電子カルテベンダーが独自規格を開発し、それぞれ乱立したまま標準化が進まず、結果的に医療情報と臨床試験データの連携も実現が停滞した。
それが最近になり、処方・注射歴、検体検査結果、病名登録の項目を、世界標準のHL7で出力できる電子カルテについては、厚労省の規格に標準的にデータを保存する方向に収れんしていく新たな動きが出てきた。
少なくとも、医療機関に蓄積されたデータが標準化されることは、かつてない重要なステップとなる。標準化された医療情報は、災害時や臨床試験、地域医療など、様々な分野での活用が期待できる。それが新しい医療の実現や質の向上につながることは、日本の患者に大きなメリットをもたらす。
さらに、新しい標準を日本から提案することができれば世界展開の可能性も出てくるが、当面は国内の電子カルテ標準化が最大の課題となってくるだろう。
既にヘルスケアの分野では、医療情報の世界標準であるHL7、そしてCDISCが存在感を増している中、日本の電子カルテはガラパゴス化から脱却するチャンスをつかみつつある。それを生かさない手はない。