聴診や触診などによって患者の全身状態を評価するフィジカルアセスメントを習得し、業務に役立てたいと考える薬剤師が増えている。
病院薬剤師が病棟に常駐してベッドサイドで業務を行う機会が増えるとともに、フィジカルアセスメントへの意識が高まった。それを契機として、こうした考え方は在宅医療に取り組む薬局薬剤師にも波及。各団体による研修会が全国で盛んに行われ、病院や在宅医療現場での実践が広がってきた。
薬学教育現場にも取り入れられるようになり、人体モデルを使って薬学生がフィジカルアセスメントを学ぶ教育が、全国の薬系大学で行われている。
薬効や副作用を評価する上で、薬剤師が行うフィジカルアセスメントには大きな意義がある。また、医療スタッフの基本的な業務として、薬剤師がそれを当たり前に実践することにも、有用性はあるだろう。
ただ、どこまでを自ら行う必要があるのかという点については、様々な見解が聞かれる。医療施設の人員配置状況の違いや、在宅医療における医療・介護スタッフの訪問頻度の違いなど、環境に応じた柔軟な対応が求められる。
さらに、フィジカルアセスメントの技法習得に意識が偏ってしまい、得られたデータをどう解釈するかについては、技法の習得ほどには意識が向けられない場合もあり得るのではないか、と危惧する声も聞こえる。もしそうだとしたら、技法に併せて解釈の教育をしっかり行うなどの対応が欠かせない。
体温、血圧、心拍数、呼吸数、酸素飽和度などのバイタルサインに関しても、基本的な解釈を学んだ上で、それ以上薬剤師がどこまで踏み込んで、どう活用するのかという課題がある。現場で実践しながら今後、その体系を作り上げていく必要があるかもしれない。
バイタルサインは「気軽にとれる、とても重要なサインの一つであることは間違いないが、それで全てが分かるわけではない。バイタルサインだけで評価するのではなく、症状と照らし合わせることが重要」と、ある医師から聞いた。薬剤師によるバイタルサインの活用法としてまずは、アナフィラキシーショック、心原性ショック、敗血症性ショックの症状など「緊急性のあるバイタルサインを見逃さないという活用法がある」と、その医師は助言する。
フィジカルアセスメントに加え、患者の症状を正しく評価するには「病歴が重要」との意見も聞く。患者の症状は一体何に由来するのか、既往歴や服薬歴にその答えが隠されている場合がある。病歴を考えぬき、症状を評価する能力を習得することも薬剤師に求められるだろう。
フィジカルアセスメントの習得をきっかけに、幅広い視野で患者の評価を行えるような、薬剤師の能力の育成が進むことを期待したい。