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医療事故調査組織に求められるものは

2007年10月24日 (水)

 厚生労働省は17日、「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する試案」を公表した。試案には、医療行為に関連して予期せぬ形で死亡した人の死因などを究明する「医療事故調査委員会」(仮称)を設置することが盛り込まれている。新組織は、▽医療機関の死亡事例の届け出先を現在の警察ではなく、この組織に一本化する▽遺族・患者側の委員をメンバーに入れる▽事故の可能性がある全ての死亡事例について新組織への届け出を義務づける▽事件性が疑われるケースは新組織から警察に迅速に通報する▽医療機関が届け出を怠った場合は罰則を科す――などの点が大きな柱となっている。

 しかし、こうした“事故調”のいわば先輩ともいうべき、国土交通省の「航空・鉄道事故調査委員会」とは明らかに違うところがある。

 航空・鉄道事故調査委員会は航空事故、鉄道事故や重大インシデントの原因を科学的に究明し、公正・中立の立場から事故の防止に寄与するための独立した機関として創設されたものだが、あくまでも徹底した原因究明を行うと共に、“再発防止策”を講じることを主眼に置く。

 しかし、厚労省が示した試案では、新組織は航空・鉄道事故調査委員会と同様の調査権限を持ち、報告書は個人情報を伏せて公開するとはしているものの、医師側に責任があったとの結論が出た場合、行政処分の対象にする点が異なる。

 こうした試案について医療関係者の中には、「真相解明のため、調査に協力した医師の刑事処分を免除すべきだ」との意見も出ている。

 新組織を責任追及の場とすると、事故の原因究明が冷静に行えず、医師と患者の間で軋轢を生じさせるばかりか、紛争の解決と責任追及を同時にすることで、互いに悪影響を与えるなどというのがその理由だ。

 航空機の乗員等で組織される日本乗員組合連絡会議は10月になって、「航空・鉄道事故調査」に関する提言をまとめているが、この提言でもこうした点に言及している。

 具体的な事例として、▽1997年に起きた日航機706便による三重県志摩半島上空で大揺れによる負傷者発生事故で、事故の再発防止が唯一の目的である事故調査報告書をもとに機長が起訴された▽01年に起きた駿河湾沖で発生した日航機ニアミス事件で事故調査報告書が関係者の刑事責任に材料として使われた――などを挙げ、「このような事故調査と警察の捜査の現状は、真の事故原因を調査する上で大きな障害となっている」とし、警察庁と事故調査委員会との間に交わされた覚書で、警察の犯罪捜査が優先され、事故調査委員会は警察の鑑定機関として協力するように取り決めていることを改めるべきと提言。

 さらに、ヒューマンエラーは、事故原因を構成する要因の主要なものの一つであり、同時に人間はいかに訓練を充実したり罰則を強化したりしても、ある確率でエラーを起こすことは避けられないことから、「当事者の行動が犯罪を意図したものでなければ、刑事責任の対象から外し、公正な事故調査によって事故の再発防止を図ることで、社会の要請に応えるべきだ」としている。

 事故原因の究明には、技術的な面以外に、人間や組織の関与、つまりヒューマンファクターの解明を行うことが不可欠。それには、事故当事者の証言をいかに的確に得るかが重要となる。医療事故の場合はなおさらだ。

 厚労省の試案は来月2日までパブリックコメントを求めているが、「事故の再発防止という観点から、原因究明と責任追及は制度上切り離すべきだ」という航空業界の意見も“医療版事故調査”制度設計を進める上で、大切な視点であるのは確か。今後、議論を進める上で参考としなければならない視点だろう。



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