第67回日本癌学会
細胞周期チェックポイント機構に関わる「Chk1」が欠損するなど働きが阻害されると、アポトーシスが誘導されることを、三田貴臣氏(ダナファーバー癌研究所小児腫瘍学)が明らかにした。放射線などによって遺伝子の損傷が起こると、細胞はアポトーシス誘導分子のp53やアポトーシスを調節するBcl-2ファミリー蛋白質を介してアポトーシスを起こすことが知られているが、Chk1の阻害だけでもアポトーシスが誘導されることから、今後、放射線治療などでのChk1阻害剤の応用も期待されている。成績は28030日に名古屋市で開かれた第67回日本癌学会で報告された。
正常細胞に放射線を照射すると、シグナル伝達因子のATM/ATRやChk2のシグナル伝達によってp53が活性化される。活性化されたp53は、アポトーシスのシグナル伝達因子であるPUMAなどの遺伝子発現を促し、ミトコンドリアの膜電位が変化して、細胞にアポトーシスを起こさせる一連のカスパーゼ経路が活性化され、細胞死が起こる。
しかし、癌細胞ではp53の欠損や変異に加え、アポトーシスを抑制するBcl-2が高発現するなど、アポトーシス経路の異常が知られ、それによってミトコンドリアの膜電位変化が阻害されて、アポトーシスが誘導されず、放射線療法に治療抵抗性を示すケースが見られている。
その一方で、p53に異常があっても、放射線照射によってアポトーシスが誘導されることも、動物実験で確認されている。
そこで三田氏らは、p53に依存しないアポトーシスがどのような機構で起きているのかについて研究を行った。着目したのは、細胞に遺伝子異常がないかをモニターするような役割を果たしているChk1遺伝子。
検討は、p53などを欠損させたゼブラフィッシュのエンブリオを使い、Chk1遺伝子などの因子を欠損させたモデルを作製し、アポトーシスの誘導について調べた。その結果、Chk1遺伝子欠損モデルでは、p53に異常があっても、アポトーシスが誘導されることが分かった。
さらに、三田氏らが研究を進めているChk1阻害剤「Go6976」を投与し、放射線照射を行った結果、G2期などでアポトーシスが起こることも確認された。
また、ヒト癌細胞モデルでp53を介さずにアポトーシスを引き起こす分子を検証するため、Chk1欠損モデルを使って、アポトーシスに関わる分子をノックアウトしたモデルを作製した結果、アポトーシスの抑制にカスパーゼ2が関わっていることが示され、既存の経路とは異なるパスウェイが存在することが示唆された。
三田氏は、「p53をバイパスしたシグナル伝達経路には、Chk1の欠損が関わっていることが示された。臨床的意義としてChk1の働きを阻害し放射線照射を行うことで、アポトーシス抵抗性癌細胞の場合でも、再びアポトーシスを誘導できる可能性がある」とした。