新日本製薬は、全国の地方自治体と提携して、漢方薬の約7割に用いられている、薬用植物「甘草」の国内栽培に取り組んでいる。新潟県胎内市や熊本県合志市、青森県新郷村と、甘草の栽培研究で調印を結んだほか、島根県・宮城県とも提携。五つの自治体で甘草の栽培化に向けたプロジェクトが進行中だ。5年後には、漢方薬原料となる甘草の国内需要分の10%を生産し、海外輸入に依存する甘草栽培で先導役を担う考え。グループ会社で甘草栽培の研究開発を手がける「新日本医薬」の長根寿陽開発事業室次長は、本紙の取材に対し、「薬用植物の栽培事業に取り組み、地域振興をサポートしながら、日本の健康産業を担える会社を目指したい」と話している。
甘草は漢方方剤の約7割に用いられているが、全て中国からの輸入に依存している。食用としても利用されており、消費量が増加したため、資源の枯渇も懸念されている。そのため、中国政府は採取制限を強化し、輸出規制も設けた。
その結果、世界的な需要の高まりを受け輸入価格が高騰。国内の安定供給に懸念が生じている。「第2のレアアース」「レアプラント」とも呼ばれ、昨年から国内でも人工栽培に乗り出す企業が相次いでいる。
こうした中、新日本製薬は、化粧品や健康食品などの製造・販売を手がける一方で、数年前から甘草の栽培化に向けた研究開発に着手。このほど、山口県岩国市にある「岩国本郷研究所」で、甘草に関して高品質な苗づくりや露地栽培技術を確立した。
長根氏は、今後の商業生産に向け、「甘草栽培を地域振興に役立てたい」と強調。今年に入り、五つの地方自治体と相次いで提携をスタートさせている。
既に甘草の栽培研究で三つの自治体と調印を済ませているが、提携の狙いはそれぞれで異なる。新潟県胎内市の場合では、甘草が自生している中国東北部と気候風土が似ており、海岸部の砂丘地にある休耕地が、絶好の土壌環境にあることが大きな理由になっている。
熊本県合志市の場合は、栽培拠点というだけでなく、アカデミアや行政機関が集中している環境を生かし、甘草栽培の研究開発拠点に位置づけている。また、青森県新郷村は、降水量が少ない冷涼地帯で栽培に適しているほか、植物工場の特区を目指す青森県、甘草と同じ「根もの」栽培で高い実績がある近隣自治体のネットワークを活用できると判断した。
一方、調印は結んでいないものの、宮城・島根県でも甘草栽培の共同プロジェクトが始まっている。特に東日本大震災で被災した宮城県については、「塩漬けとなった農地が、甘草の栽培に適している可能性がある」(長根氏)とし、復興を後押しする考えだ。
今後、試験栽培を1年間行い、甘草の国内生産にメドをつけ、5年後には200tの生産を目指す方針を打ち出している。これは甘草の国内需要分の約10%に相当する。既に目標達成に必要な農地は確保しているという。
長根氏は、「今年1年は、同一品種、同一栽培方法で試験栽培を試し、気候差や地質差がどの程度影響しているかを確かめて、比較していきたい。グリチルリチンだけの差で見るのか、あるいは他の成分も見ながら、他に特産物として応用できないかを検討していきたい」と話す。グリチルリチンが含有した根のみならず、地上部の活用も提案し、付加価値を高めて、地域振興に役立てたい考えだ。
今後、甘草だけでなく、他の薬用植物栽培にも取り組み、産官連携で漢方薬の国産化にチャレンジする構えだ。長根氏は、「薬用植物の栽培化事業を通じて、各自治体とコンソーシアムを組んで、地域振興に貢献したい」と意欲を示している。