地域医療に欠かせぬ存在へ

MR認定センターによる新たな認定制度が4月からスタートする。薬剤師や医師など医療者が連携して地域の患者により積極的に関与する流れが加速する中、MRにも地域包括ケアへの支援が求められている。日本医師会の宮川政昭常任理事は「MR認定要綱が成長の足場になる」とし、MSL(メディカルサイエンスリエゾン)と住み分けた形で地域医療を支援できる可能性があるとした。認定要綱の策定に関わった宮川氏に、医師の視点から策定にかけた思いや今後のMRに対する期待を語ってもらった。
定義や資質など明確化
――現状のMRの問題点や課題は。
役割がはっきりしないこと、つまり、MRがどこで活躍できるか考える必要があることが課題だと思う。製薬企業がすべきことはたくさんあるし、営業活動以外でMRが活躍できることも山ほどあると考え、MR認定要綱策定に協力した。
今回の要綱では、MRの定義、資質、倫理観のほか、認定センターや企業、実施機関、MRのそれぞれの責務などを明確化している。これまで責務については、企業に関するものしか明記されていなかった。認定要綱には多くの可能性が秘められており、関係者全員が要綱を読み、現状のどこに問題があるのか考えてほしい。そうすることで、MRという集団が薬を通じて社会を良くする一員になれるかもしれない。
現場での業務で、「ここまでは良いが、ここからはダメ」と記載した憲法や法律のような規範があった方が良いと考えていた。関係者が議論できる素材になるよう期待している。
――MR要綱策定にかけた思いは。
要綱の策定以前からMRを地域医療に不可欠な存在と捉え、地元の神奈川県で研修会を開催するなどして関わってきた。少しでもMRに貢献したいとの思いを一つの到達点に持っていくため、要綱の策定に携わった。これまではMRが変化するための足場すらなかったので、私は足場ができたことは幸いに感じている。
しかし、要綱策定後の自分たちの立場がどのように変化するか分からないから、製薬企業の関係者は疑心暗鬼で見ているのではないか。策定理由などをメッセージとして出す必要があると考えているが、MRに届くにはまだ時間がかかるだろう。反応を一つひとつ見ながら、MR要綱の活用方法も含めて考えていきたい。
MRは医療に相当貢献していると思う。例えば、地域医療における自身の評価を様々な人から話を聞く必要があるが、開業医のほとんどが自身の評価を聞く機会がない。
その点、MRは医師の評価を決める側面を持っている。一般人としての考え方や、医師の置かれた立場を客観的に教えてくれるのがMRだと捉えることができる。ただ、その評価はMRの主観でもあるので、可能な限り多くのMRから話を聞く必要がある。
――MRが医療のパートナーになるために何をすべきか。
MRとMSLの違いに目を向けると、MSLは医薬品に関する様々な情報の解説者であり、伝達者だ。可能な限り、科学的根拠に基づいた情報を伝えるのがMSLだと私は考えている。
しかし、患者の生活環境、ライフスタイルに応じて最適な医薬品を投与する必要がある。医薬品を服用する患者には家族がいて、患者の体調が悪化することで家族にも何らかの影響が出る場合もあり、この情報を拾っていけるのがMRだと思う。私は地域包括ケアにはMRが重要な存在であることをこれまでもいろいろな場所で強調してきたが、その姿にはまだ遠いと感じる。
医薬品の服用後に患者の生活がどう変化したかを見られるのはMSLではなくMRである。医師は院内に、薬剤師は薬局内にいるが、MRは様々な人に会い、患者の治療の道のりがどうなるかを把握できる。改正医薬品医療機器等法(薬機法)で地域連携薬局の認定制度が始まり、薬剤師も医師と連携して患者の生活を見ていくことになるが、そこにMRも関与できると考えている。
医療課題解決へ企業は変化を
――MRの活躍に向けて求められる企業姿勢は。
製薬企業が社会貢献を社是としているならば、今こそセミナーなどに社員を参加させるべきだと思う。地域で患者が何に困り、何が原因で服薬できていないのかなど、地域の本当の状況を把握する必要がある。世間には様々な情報が転がっており、それを拾っていけるのが医療関係者としてのMRである。
MRが災害発生時に被災者に毛布や水などを配ることなどは、地域を知っているMRだからこそ地域に貢献できる一例だ。私はある製薬企業のMRに救命救急に関する資格を取得するよう勧めたら、本当に取得した。地域住民のために勉強していれば、身につけるべき技能、知識は医薬品のみではないはずだ。地域の医療課題解決に貢献できるよう、どのように変化していけばいいかを考えていく、企業側に変化が求められる時代になる。
医薬品の情報を提供する際に、服薬アドヒアランス改善につながるような患者への説明を医師に提案してくれるMRは素晴らしいと思う。医薬品はただの情報の羅列ではなく、服用という行為が必要だ。薬が薬らしく使用されることに貢献するため、「薬に言葉を添える」ことがMRに求められている。これを製薬業界が許すかがこれからのチャレンジになるが、現状のまま何も変わらなければ、MR不要論が加速することにつながってしまうだろう。
自社製品、他社製品問わず、患者に医薬品を正しく服用させるための支援が本当のMRの役割と考えている。これは医師や薬剤師だけでは不可能で、MRがサポートしないと達成できない。
――今後のMRに対する期待を。
要綱という基礎がやっとできた段階であり、スタートラインだ。関係者全員がMRが活躍できる環境を一生懸命考えているので、もう少し見守っていてほしい。新しいMRの1ページ目ができたところに、これからMRが自分たちで書き足して立派な本に完成させる必要がある。