【日本香粧学会学術大会】海老原氏がアトピー性皮膚炎で会頭講演‐皮膚をみる、多分野との交流が大切に

2025年07月09日 (水)
海老原氏

海老原氏

 第50回日本香粧学会学術大会[会頭:海老原全(えびはら・たもつ)氏・東京都済生会中央病院]が4、5の両日、「人類、未来、香粧品~探る、挑む、解き明かす」をメインテーマに、東京・有楽町の有楽町朝日ホールで開かれた。初日には海老原氏が会頭講演「皮膚をみる―その新しい潮流」を行い、アトピー性皮膚炎に関して行ってきた研究を紹介すると共に、治療法選択やオーダーメイド医療の可能性について触れた上で、「皮膚科医は、診療を行うことが重要であると同時に、他の分野の専門家と積極的に交流し、新しい試みを行うことが重要となる」と、学会員等へメッセージを送った。

 海老原氏は、疾患の治療薬・治療法の開発は、基礎的な研究から疾患を抑制する分子などを予想し、さらに、バイオマーカー、治療の標的を見出し、大規模な臨床試験を行い、統計的な検証を経て、実際の使用を目指していくという過程を経て行われてきていると指摘。皮膚疾患の分野でも、これは例外ではなく、標的に対する治療法として多くの薬剤が登場し、乾癬治療分野から始まった近年の皮膚疾患治療の進歩は目覚ましく、その流れはアトピー性皮膚炎分野にも及び、優れた治療効果を上げているとした。

 ただ、アトピー性皮膚炎のように、多様性に富んだ多因子疾患では、それぞれの治療薬に対する反応性が個人によって異なることが見受けられるとし、治療薬に対する個人の反応性の差異を薬の使用前から想定できるようになれば、治療を受ける患者には福音になると考え、海老原氏らはアトピー性皮膚炎克服プロジェクトの研究を進めてきている。

第50回日本香粧学会学術大会

 こうした中で、アトピー性皮膚炎患者から、多くの臨床症状やマイクロバイオロジー(微生物学)、バリアデータ、血液・皮膚サンプルのデータを収集し、データベースの構築や、動物モデルのデータを統合して解析した結果、患者の層別化が重要なことを再確認したという。

 その中で、血液あるいは皮膚組織を採取し、その遺伝子データを網羅的に抽出、横断的解析の結果と皮膚症状を総合的に評価すると、アトピー性患者では皮膚と血液の細胞間に相互作用があることが分かった。

 理化学研究所などとの共同研究として、皮膚組織や血液の両方を解析、さらに皮膚症状をしかりみて評価する試みを行った。その結果、サイトカインとその受容体の発現を統合して解析することが病態の解明に必要なこと、異なる病態では異なる分子病態が存在することが分かってきた。

 経時的な変化については、病勢の変化から多様性を理解しようということで、30人の患者の1年間の血液の経時的データを見ると、病勢パターンとして、▽クラスター1(重症状態が継続)▽クラスター2(寛解・増悪を繰り返す)▽クラスター3(軽症状態の継続)――の3パターンがあることを見出し、クラスター1では免疫抑制剤を使っている症例が多かったことなどや、各種データはもちろん、治療履歴が重要なことが再確認されたという。

 実際の皮膚という現場で、血液検査だけでは捉えられない変化、塩基反応の全体像が捉えられないかと、非負値行列因子解析(NMF)を試みた。そうすると、転写因子系、線維芽細胞系の遺伝子群として29遺伝子群を抽出することができた。特に転写因子群では、乾癬と比較してアトピー性皮膚炎では有意性が認められた。また、こうした遺伝子群と皮膚状態との関連性を見ると、炎症に関わる遺伝子群は正の相関を、線維芽細胞遺伝子群は逆相関していた。

 現在、分子標的薬が乾癬からアトピー性皮膚炎分野に広がり、様々な薬が使われるようになってきた。デュピルマブの反応性を調べると、「早期に効く患者」「大体効く患者」「反応性が乏しい患者」の3グループに分類できた。その中で、治療反応性が乏しい患者は、タイプ17遺伝子型群が高い群、線維芽細胞群が少ない群、転写因子群が高い群であることが分かった。

 また、アトピー性皮膚炎の治療中のモニタリングについても、将来、適切な治療薬が異なり、それぞれい合った治療、バイオマーカーに着目することで、もっと精密医療の実現につながる可能性があることが、徐々に分かってきているという。

 このほか、欧米で行われている次亜塩素酸を入れた風呂の効果については、海外でいわれているほど、全ての患者に効くのではないということなどが明らかになってきた。さらに、皮膚画像から皮膚バリア状態を予測する手法、電子皮膚から計測される生体シグナルの医療・ヘルスケアへの応用などの研究を、他施設と共同で取り組んできている。

 こうした研究の状況を説明した上で海老原氏は、「皮膚科医に関しては、いろいろな手法が登場してきているが、皮膚をしっかり見て臨床的な分類を行うことが必要で、診療をしっかりすることが重要となる。また、他分野の専門家と積極的に交流し、新しい試みを行っていくことが必要。専門性の中に引きこもってしまわず、垣根を取り払っていろいろな人と交わり合うことで、新しい結果、新しい展開が生まれてくると思う」との考えを強調した。


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