2年前、アメリカで開催されたIFVP https://www.ifvp.org/ (International Forum of Visual Practitioners) カンファレンスに参加した経験は、今の私の仕事に大きく影響しています。きっかけは、スカラシップ制度に応募し、数百人の応募者の中から選出されたことでした。日本人として初だそうです。
緊張の中実際に会場に足を踏み入れて、最初に感じたのは、「こんなにも世界中で、グラフィックレコーディングが仕事として根付いているんだ」という驚きでした。
そこにいたのは、「最近グラフィックレコーディングが注目されているから始めた」という人たちだけではありません。
何十年もの経験を持つベテランもいる。
アメリカ、チリ、ドイツ、スペイン、イギリス……さまざまな国から、長年にわたってグラフィックレコーディングやビジュアルストーリーテリングを仕事にしてきた人たちが集まっていました。
そして、もちろんヘルスケア業界でグラフィックレコーディングを行っている人も。Key Opinion Leaderのプレゼンテーションを一枚のグラフィックで表現するような、まるでグラフィックアブストラクトを思わせるような緻密な作品を創っている人もいました。色々な人と話をする中で特に印象に残ったのが、ペイシェントジャーニーです。実は私自身も、これまでヘルスケアの現場でペイシェントジャーニーをグラフィックレコーディングした経験があります。
だからこそ、
「これ、私もやったことがある!」
と、一気に距離が近くなった感覚がありました。
そして、さらに嬉しかったのが、国が違っても仕事の進め方には共通点があったことです。
依頼を受けたら、まず必ずクライアントと打ち合わせをし、どんな内容なのか、誰に向けたものなのか、何を成果物として残したいのか、完成したグラフィックを、その後どのように活用したいのか。。
必要な資料を事前に受け取り、当日のセッションについて理解を深め準備する。どう整理し、何を残し、どうビジュアルとして表現するのか。事前に構成を考え、本番に臨む。
「準備が、仕事の大部分をつくる」
そんな感覚まで、驚くほど似ていました。
「国が違っても、やっぱり同じなんだね」そんなふうに、お互いに共感し合えたことが、とても嬉しかった。
これは私にとって、本当に大きな気づきでした。
それまで私は、海外のグラフィックレコーダーは、一体どんな準備をして、どんなふうに仕事をしているんだろうと、感じていましたが実際に会って話してみると、悩むことも、準備することも、クライアントと確認することも、驚くほど似ている。
「私が日本で積み重ねてきたことは、世界の実践ともつながっているんだ」
そう思えたことは、その後の私の仕事にとって、大きな自信になりました。またカンファレンスでは、今でも忘れられない出来事があります。
プレナリーセッションの時間で、私は思い切って質問をしました。
「AIの技術が進んだら、我々グラフィックレコーディングはなくなってしまうのでしょうか?またAIができないことはなんだと思いますか?」
今思えば、かなりヒヤッとする質問です。自分たちの職業そのものを否定するようにも聞こえかねない。質問をした瞬間、会場が一瞬凍りついたことを、今でもはっきり覚えています。
しかも英語で、「自分が伝えたいニュアンスは、本当にちゃんと伝わったのだろうか」そんな不安もあり、終わった後は背中に汗をびっしょりかいていました。「やっちまったなぁ」の感覚でした。
けれど、返ってきた答えは、
「答えはまだ分からない。でも、これから私たちが考えていかなければならない重要なテーマだ」
というものでした。
そして、驚いたことに、セッションが終わると何人もの方が私のところに声をかけてくれました。
「あの場であの質問をしたことは大切だったと思う」
そう言ってくれる人もいました。
さらに、コンサルティングファームで働いている方からは、過去のデータや事例を見せていただきながら、
「これからビジュアルの仕事はどう変わっていくのか」
について、一緒にディスカッションする機会まで生まれました。
あのとき、怖くても問いを投げかけてみたことで、新しい対話が生まれたのです。現在AIの使われ方についてさまざまな意見が出てきていますが、2年前に私がした質問を振り返るとまた新しいディスカッションが生まれるのではと考えています。
そして今、私はそのカンファレンスのBoard of Directorsの一員として活動しています。
まだまだ学ぶことばかりで、手探りの状態です。
それでも、世界各国のグラフィックレコーダーと意見を交わしながら、
「これからグラフィックレコーディングはどう進化していくのか」
「人だからこそできることは何なのか」
「ビジュアルの価値を、これからどう伝え、残していくのか」
そんなことを、世界の視点から学んでいます。
いつか、その学びを日本にも還元し、そして世界にも貢献できるようになりたい。
それが今の私の新しい目標の一つです。
国境を越えて、同じ仕事をしている
アメリカでの経験を振り返って、今でも一番心に残っているのは、
「私は日本で一人でやっているわけではない」
と知れたことです。
世界には、同じように準備をし、考え、悩みながら、ビジュアルの力を信じて仕事をしている人たちがいる。
国が違っても、言葉が違っても、
「伝えるために、どうすればいいのか」
を考えている。
そして、そのために必要な準備や、クライアントとの対話は、驚くほど共通していました。
あのときの出会いや学びは、今も私の中に残っています。
だからこそ、私はこれからも、医療やヘルスケアのように、言葉だけでは伝わりにくい情報を、
「伝わるビジュアル」へ。
人が理解し、記憶し、誰かに伝えたくなる形へ。
患者さんや、そのご家族、医療者、研究者、企業など、異なる立場の人たちとの会話の中で感じるもやっとした…「あともう一歩で伝わりそうなのに」の部分をちょっとでも補える存在になりたい。それが、私がグラフィックレコーディングを続ける理由です。
一枚の絵が、誰かの理解を助ける。
誰かの記憶に残る。
そして、ときには、人と人をつなぐ。
そんなビジュアルを、これからも描いていきたいと思っています。
プロフィール
グラフィックレコーダー
吉川観奈
ヘルスケア領域を専門とするグラフィックレコーダーとして、複雑な対話や意思決定のプロセスを整理し、共通理解と次のアクションにつながるビジュアルを創り出しています。
2016年、外資系製薬企業在籍時にグラフィックレコーディングと出会い、2021年より本格的に活動を開始。医療・ヘルスケア分野を中心に、日本語・英語の両方で、会議やワークショップ、ビジョン策定、組織対話の可視化を支援しています。
2024年には、世界中のグラフィックレコーダーやファシリテーターが集う国際組織 International Forum of Visual Practitioners の国際サミットに、日本人初の奨学生として参加。2026年より同団体のBoard of Directorに就任。さらに、ドイツ発のビジュアルファシリテーションブランド Neuland のJapan Ambassadorも務めています。
患者会のビジョン・ミッション策定、PPI、コンプライアンス、インクルージョンサミット、プロダクトローンチ、ワークショップなど、多様な場で実績を重ねてきました。
これまでに、外資・内資製薬企業、医薬品開発業務受託機関、患者団体、医療データ関連組織、在日アメリカ商工会議所、医療・臨床開発関連学会、大手外資系金融機関などへの支援実績があります。
Website https://bluebeeink.com/
























