厚生労働省が8月28日に公表した2025年度の調剤医療費は、電算処理分で8兆7242億円となり、24年度に比べて3.8%増えました。その一方で、院外処方箋枚数は24年度に比べて1.1%減っていました。それでも調剤医療費が増えたのは、院外処方箋1枚あたりの金額が5.0%上昇したためです。院外処方箋1枚あたりの単価上昇や調剤医療費の増加によって、単純に薬局の利益も増えたと考えてよいのでしょうか。新人記者のおかっちが、先輩のK山記者のもとを訪れました。
枚数が減っても調剤医療費が増えた理由
おかっち 厚生労働省が25年度の「調剤医療費の動向」を公表したという記事を見たのですが、そもそも調剤医療費って何でしょうか。
K山 保険薬局が院外処方箋を受け付けて行う調剤にかかった費用のことだ。薬そのものの金額である「薬剤料」に加えて、薬剤師の調剤や服薬指導などを評価する「技術料」も含まれている。少し言い換えると、薬局で行われる保険調剤の市場規模を表す数字なんだ。
おかっち その調剤医療費が全体的に増えたってことでしたよね。
K山 そうなんだ。25年度の調剤医療費は8兆7242億円で、24年度から3.8%増えたんだよ。
おかっち そうなると、薬局は基本的に24年度に比べて儲かった、と言えるのですか。
K山 結論から言おう。全体として保険薬局に支払われる費用は増えたし、もちろん利益にも影響はするけれど、儲けが大きく増えたとまでは言い切れない、と個人的には見ている。
おかっち それはなぜですか。
K山 その説明に入る前に、まずは調剤医療費の中身をしっかり見てみよう。大きく捉えれば、全体の調剤医療費は「院外処方箋枚数×院外処方箋1枚あたりの調剤医療費」で決まる。25年度の院外処方箋枚数は8億8669万枚で、24年度から1.1%減ったんだ。一方、1枚あたり調剤医療費は9839円で5.0%増えている。
おかっち 全体の院外処方箋枚数は減ったのに、1枚あたりの金額は上がったのですね。
K山 そういうことだ。枚数の減少より単価の上昇の方が大きかったため、調剤医療費全体では3.8%増えた。まずは「枚数減、単価上昇、総額増」という三つの動きを押さえておこう。
増加の主役は薬剤料 売上増が利益増とは限らない
おかっち 調剤医療費には、具体的にどのような費用が含まれているのでしょうか。
K山 25年度の総額8兆7242億円は、技術料2兆3730億円、薬剤料6兆3343億円、特定保険医療材料料170億円で構成されている。構成割合では、薬剤料が72.6%、技術料が27.2%、特定保険医療材料料が0.2%だ。調剤医療費の7割以上を薬剤料が占めているんだ。
おかっち 25年度は、どれが大きく伸びたのでしょうか。
K山 薬剤料は24年度に比べて4.5%増、金額ベースでは約2751億円増えたんだ。一方、薬剤師や薬局の技術料の総額は2.1%増で、金額ベースでは約479億円の増加にとどまった。薬剤料はもともとの金額が大きいうえ、伸び率も増加額も技術料を上回っている。今回、調剤医療費を押し上げた主役は、薬剤料だったと見てよい。
おかっち 薬剤料が増えれば、薬局の利益も増えるのではないですか。
K山 そこは違うんだ。薬剤料は売上には計上されるものの、大部分が医薬品の仕入れに対応するため、技術料に比べて利益になりにくいんだ。在庫や廃棄のリスク、保管や温度管理の負担もある。
おかっち 利益との関係では、技術料の方が重要なのでしょうか。
K山 薬剤師の専門サービスへの対価である技術料の方が、薬局の利益につながりやすい。もちろん、薬剤師や事務職員の人件費、店舗賃料、調剤機器やシステム費、光熱費などの支払いが必要で、そのまま利益として残るわけではないよ。
おかっち 院外処方箋1枚あたりで見ると、薬剤料と技術料の内訳はどうなりますか。
K山 院外処方箋1枚あたりの調剤医療費9839円のうち、薬剤料は7144円、技術料は2676円、特定保険医療材料料は19円だった。24年度と比べると、薬剤料は5.7%増、金額ベースでは384円増えたのに対し、技術料は3.2%増、金額ベースでは82円しか増えていない。1枚あたり調剤医療費は全体で5.0%増、金額ベースで467円増えたが、増加額の約8割を薬剤料が占めており、技術料の増加は薬剤料に比べると小さいことが、ここでも分かるね。
おかっち 薬剤料の増加は、高い薬の影響でしょうか。
K山 高額な薬の影響もあるけれど、他の要因にも目を向ける必要がある。院外処方箋1枚あたりの内服薬の薬剤料は5243円から5450円へ4.0%増えたんだ。その要因を見ると、院外処方箋1枚あたり薬剤種類数は24年度の2.81種類から25年度は2.82種類となりほぼ横ばい。1種類1日あたり薬剤料も24年度の68円から25年度は69円となり横ばいだった。一方、1種類あたり投薬日数は27.3日から28.2日へ3.2%増となったんだ。
おかっち 最も大きく伸びたのは、投薬日数なのですね。
K山 そうなんだ。内服薬では、1日分の薬が大幅に高くなったというより、1回の処方で出る日数が延びた影響の方が大きかった。投薬日数の延長は、院外処方箋枚数を押し下げる要因になる。患者が薬局を訪れる回数が減り、薬局が受け取る技術料も減ってしまうんだ。
1枚あたりの金額に地域差はあるのか
おかっち 院外処方箋1枚あたりの調剤医療費には、地域差もあるのでしょうか。
K山 かなり差がある。全国平均は9839円だが、最も高い高知県は1万1702円、最も低い佐賀県は8621円だった。3000円を超える開きがあるんだ。
おかっち なぜこれほど違うのですか。
K山 院外処方箋1枚あたりの技術料は高知県が2903円、佐賀県が2700円で、差は203円だった。一方、薬剤料は高知県が8780円、佐賀県が5897円で、差は2883円になる。この二県では、単価差の大部分を薬剤料の違いが生んでいるんだ。
おかっち 高知県では、薬が多く使われているのでしょうか。
K山 そうとも言えない。内服薬の1種類あたり投薬日数は、高知県が32.0日、佐賀県が23.8日だった。地域によって処方される薬の種類や日数が違い、それが薬剤料の差に表れているんだ。
おかっち 院外処方箋を出した医療機関によっても単価は変わりますか。
K山 大きく変わる。院外処方箋1枚あたりの調剤医療費は、医科診療所が7119円、医科病院が2万1311円、大学病院が4万6086円だった。
おかっち 大学病院の院外処方箋の単価は高いですね。
K山 ここでも主な違いは薬剤料だ。薬局の技術料は医科診療所が2627円、医科病院が2909円、大学病院が2796円で、大きな開きはない。単価の高い院外処方箋を受け付けていることと、高い利益を得ていることは同じではないんだ。
分業率の伸び鈍化、枚数に頼らない経営へ
おかっち 薬局の収入は、院外処方箋1枚あたりの単価と枚数の掛け算でしたね。では、院外処方箋枚数は、これからどのくらい伸びる余地があるのでしょうか。
K山 その手掛かりになるのが、日本薬剤師会が今年5月に公表した処方箋受取率、いわゆる医薬分業率だ。医薬分業率は、外来患者が医療機関で薬を受け取らず、院外処方箋を保険薬局に持参して薬を受け取った割合を示している。次は医薬分業率の推移から、処方箋枚数が増える余地を考えてみよう。
おかっち 25年度の分業率は、どのくらいでしたか。
K山 82.2%で、24年度の82.1%から0.1ポイントの増加にとどまった。医薬分業はすでに8割を超え、直近の伸びも小さい。全国の院外処方箋枚数が大幅に増える余地は、以前より小さくなっていると見ておきたい。
おかっち ここでも地域差はあるのでしょうか。
K山 地域差は大きい。秋田県の分業率は94.0%、青森県は92.6%、新潟県は92.4%と高い一方、和歌山県は66.6%、福井県は67.1%だった。低い地域では今後も医薬分業が進み、院外処方箋枚数が増える可能性がある。ただし、高齢者人口減少の影響なども考えておかなければならないね。
おかっち 分業率の伸びが小さくなると、薬局は何を重視すべきでしょうか。
K山 これまでは、医薬分業の進展によって薬局が受け取る院外処方箋が増え、市場が広がる面があった。でも、分業率が80%を超え、人口も減少する中では、院外処方箋枚数の大幅な増加を前提とした経営は難しくなる。枚数だけでなく、1枚あたりの価値をどう高めるかが重要になるんだ。
おかっち 1枚あたりの価値を高めるとは、どういうことでしょうか。
K山 大切なのは、服薬期間中のフォロー、薬学的な管理、在宅対応、医療機関との情報連携など、患者に必要なサービスを着実に提供し、その専門的な仕事が技術料として適切に評価される体制をつくることだ。薬剤師の仕事の価値をどう高めるかが、これからの薬局経営のポイントになるんだ。
【参考情報】
・厚生労働省 2025年度「調剤医療費(電算処理分)の動向」
https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/25/gaiyou.html
・日本薬剤師会 2025年度「院外処方箋受取率の推計」
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/activities/bungyo/s/R7suikei.pdf























