零売(れいばい)とは、個々の顧客の求めに応じた「分割販売」を意味します。また、処方箋によらず処方箋医薬品以外の医療用医薬品を販売する薬局は「零売薬局」と呼ばれています。
2025年(令和7年)5月21日公布の改正薬機法により、零売を原則禁止とする枠組みが法律に位置づけられました。しかし、その詳細を巡っては今なお議論が続いています。
本記事では、零売薬局の歴史や買える薬の種類、2026年時点の制度などについて解説します。
※本記事は、2026年8月11日現在の情報をもとに記載しています。
零売(れいばい)とは?零売薬局の基礎知識
零売とは、個々の顧客の求めに応じて医薬品を分割して販売することです。厚生労働省は「処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方に基づかず販売すること」を指す用語ではない旨を明記しています。
なお、零売薬局という名称に法令上の定義はありません。厚生労働省は、処方箋なしでの医療用医薬品の薬局での販売を営業の主たる目的として掲げる薬局をいわゆる「零売薬局」と表現しています。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
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零売薬局の歴史
零売は、古くから薬局間の売買を中心に行われてきた慣行です。明治時代の「薬品営業並薬品取扱規則」(いわゆる「薬律」)にも、零売という用語が用いられていました。現行の薬機法の施行時にも、薬局で分割販売が可能なことが明記されていました。
2005年(平成17年)に要指示医薬品の名称が処方箋医薬品に改められ、その範囲が明確化されました。同時に発出された通知では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても処方箋に基づく販売を原則とすることが示されました。あわせて、販売が認められるのは「やむを得ない場合」に限る、という考え方も示されています。
2013年(平成25年)の法改正では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を含む「薬局医薬品」という区分が新設され、対面による販売等の規制も明確になりました。
2022年(令和4年)、厚生労働省は「やむを得ない場合」の解釈が広がり日常的に販売する薬局が増加している傾向を受け、販売方法を再周知する通知を発出。2025年(令和7年)5月には改正薬機法が公布され、零売は法律上も原則禁止へ向かうこととなりました。
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零売薬局で買える医薬品・買えない医薬品
零売の対象は、医療用医薬品のうち「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」のみです。麻薬や向精神薬などの処方箋医薬品は対象になりません。
品目数は、医療用医薬品が約20,000品目、処方箋医薬品以外の医療用医薬品が約7,000品目とされています(2020年7月時点)。両者の違いは次のとおりです。
| 処方箋医薬品 | 処方箋医薬品以外の医療用医薬品 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 薬機法第49条 | 医療用医薬品(省令第14条)のうち処方箋医薬品以外 |
| 処方箋なしの販売 | 正当な理由がある場合を除き禁止 | 法律上は禁止されていないが、処方箋に基づく交付が原則 |
混同されやすいのがOTC医薬品との関係です。ドラッグストア等で買える要指導医薬品や一般用医薬品は、零売の対象ではありません。厚生労働省は、同様の効能効果を持つ一般用医薬品等があれば、まずそちらでの対応を優先するよう求めています。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
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零売薬局で買える主な医薬品の一覧
零売で扱われるのは、古くから承認されている医薬品や、一般用医薬品の成分としても指定されている医薬品です。前者は漢方薬やビタミン剤、後者は解熱鎮痛剤、胃腸薬、ステロイド外用薬などが該当します。厚生労働省が2023年(令和5年)2月22日に示した主な医薬品は、以下のとおりです。
| 抗アレルギー薬 | フェキソフェナジン・エピナスチン・オロパタジン・レボセチリジン・ベポタスチン・トラニラスト等 |
| 外用薬 | ワセリン・外用ステロイド剤・ヘパリン類似物質・真菌感染症治療薬等 |
| 感冒・鎮咳去痰薬 | 総合感冒剤・カルボシステイン・デキストロメトルファン |
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン・ロキソプロフェン |
| 胃腸薬 | ファモチジン・レバミピド等 |
| 整腸薬 | ビフィズス菌製剤・乳酸菌製剤・酪酸菌製剤等 |
| 便秘薬 | 酸化マグネシウム・センノシド等 |
| 点眼薬 | ヒアルロン酸・ピレノキシン・ステロイド点眼薬等 |
| シップ剤 | ロキソプロフェンテープ・ケトプロフェンテープ等 |
| 栄養剤・ビタミン剤 | タウリン・ビオチン・ピリドキサール・メコバラミン・ビタミンC等 |
| 漢方薬 | 五苓散・当帰芍薬散・防風通聖散・桂枝茯苓丸等 |
※調査協力:日本零売薬局協会
あくまで販売実態を調査した結果であり、常に購入できるわけではありません。
医薬品の数量は最小限度
販売できる数量は、必要最小限に限られます。また、薬剤師は購入者がほかの薬局でも同じ医薬品を購入していないかを確認しなければなりません。
なお、反復継続的に漫然と販売する行為は不適切とされています。いわゆるサブスクリプション型の提供も認められません。適応外使用を目的とする者への販売も同様です。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について|厚生労働省
零売薬局は原則禁止?2026年時点の制度と背景
2025年(令和7年)5月21日公布の改正薬機法は、通知に基づいていた「処方箋に基づく販売の原則」を法律に明記しました。これにより、零売薬局を原則禁止とする枠組みが法律として位置づけられました。
この改正の背景には「やむを得ない場合」の解釈を広げ、日常的に販売する薬局が増加したという、想定していた運用と実際の販売実態との食い違いがあります。行政指導は行われたものの、法律上明確に禁止されていないことを理由に継続される実態があったという報告もされています。
ただし、規制を強めるだけの内容ではありません。漢方薬・生薬は一般用医薬品から医療用医薬品に転用されてきた経緯を踏まえ、販売に支障が生じないよう対応するとされました。2025年(令和7年)4月16日の衆議院厚生労働委員会では、零売薬局が医薬品アクセスに一定の役割を担ってきたとして、必要最小限かつ合理的な規制を求める内容の附帯決議も可決されています。
2027年5月20日施行予定です。
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零売が認められる「やむを得ない場合」とは
零売薬局で医療用医薬品を購入できる「やむを得ない場合」について、改正法に向けた議論の中で具体化が進められています。2024年(令和6年)1月のとりまとめでは、次の2つが例に挙げられました。
- 医師に処方され服用している医療用医薬品が不測の事態で患者の手元にない状況となり、かつ、診療を受けられない場合であって、一般用医薬品で代用できない場合
- 社会情勢の影響による物流の停滞・混乱や疾病の急激な流行拡大に伴う需要の急増等により保健衛生が脅かされる事態となり、薬局において医療用医薬品を適切に販売することが国民の身体・生命・健康の保護に必要である場合
具体的なケースや要件は、施行に向けた省令・通知等で明確化される見通しです。
参考資料 医薬品の販売制度に関する検討会 とりまとめ 概要資料|厚生労働省
その他の零売を行う際の要件
零売には、数量以外にも次のような遵守事項が定められています。
- 必要な受診勧奨を行ったうえで販売すること
- 必要に応じて、一般用医薬品等の使用を勧めること
- 対面で書面等を用いて情報を提供し、薬学的知見に基づく服薬指導を行うこと
- あらかじめ年齢、他の薬剤または医薬品の使用状況、性別、症状等を確認すること
- 品名、数量、販売の日時等を書面に記載し、2年間保存すること
- 購入した者の連絡先を書面に記載し、保存するよう努めること
- 薬剤服用歴を管理し、数量を適正と判断した理由を記載すること
- 販売後も使用状況を把握し、必要な情報提供や服薬指導を行うこと
- 販売等に必要な手順を手順書に明記し、それに基づき業務を実施すること
このほか、販売した薬剤師の氏名や、薬局の名称、電話番号などの連絡先を伝える必要があります。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について|厚生労働省
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
不適切とされる販売方法・広告表現に注意
医療用医薬品は、処方箋医薬品かどうかを問わず、一般人を対象とする広告が禁止されています。そのため「処方箋なしでお薬が買える」といった訴求は認められません。厚生労働省の通知は、不適切な表現として次の例を挙げています。
- 処方箋がなくても買える
- 病院や診療所に行かなくても買える
- 忙しくて時間がないため病院に行けない人へ
- 時間の節約になる
- 医療用医薬品をいつでも購入できる
- 病院にかかるより値段が安くて済む
これらに限らず、購入できると誤認させる表現も同様に不適切です。
参考資料 処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について|厚生労働省
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
患者から見た零売薬局のメリット・デメリット
零売薬局をめぐっては、規制強化を求める意見と医薬品アクセスの受け皿として評価する意見が対立してきました。厚生労働省の検討会でも、双方から意見が出ています。ここでは患者の視点に立ち、利点と課題を整理していきましょう。
零売薬局のメリット
患者から見た零売薬局のメリットは、主に医薬品アクセスの面にあります。日本零売薬局協会の理事長は、2023年(令和5年)2月22日に開かれた「医薬品の販売制度に関する検討会」の初会合にて「あくまでも零売は手段のひとつであり、薬が手に入らない場合に緊急避難的に販売する」と説明しました。
このほか、セルフメディケーションの促進につながる点もメリットであるといえるでしょう。
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零売薬局のデメリット
最大の課題は、医師の診断を経ないリスクです。薬剤投与は原則として医師の判断に基づくべきであり、趣旨を逸脱した標榜や広告は乱用の助長につながる、との懸念が示されました。ステロイド点眼薬など、副作用の強いものも販売されているとの指摘もあります。
制度の先行きが不透明な点もデメリットのひとつです。規制の運用などによっては、緊急時の受け皿として利用できていた零売薬局が突然使えなくなるおそれがあります。事業者3社が国を訴えた訴訟は2026年(令和8年)6月2日に結審し、判決は同年9月18日に言い渡されます。原告側は「全国の零売薬局が事業を継続できるかどうかに関わる大事な判決となる」とコメントしました。
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零売薬局での医薬品購入の流れと注意点
零売薬局を訪れても、希望する医薬品をそのまま購入できるわけではありません。薬剤師の確認と判断を経て、販売の可否が決まります。来店から購入までの流れや注意点を確認しましょう。
来店から購入までの流れ
薬剤師が年齢や他の薬剤や医薬品の使用状況、性別、症状などを確認します。次に、同様の効能効果を持つ一般用医薬品等で対応できるかが検討されます。対応できる場合はそちらが優先され、在庫がなければ他の薬局や店舗販売業が紹介されます。
一般用医薬品等での対応を考慮してもなお、やむを得ないと判断された場合に限り販売へ進みます。このほか、必要に応じた受診勧奨も行われます。販売が決まると、薬剤師自らが調剤室で必要最小限の数量を分割します。
販売時は、薬局内の指導を行う場所で対面による情報提供と服薬指導が行われます。購入後の使用状況についても、継続的な把握が求められます。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について|厚生労働省
零売薬局での医薬品購入は保険適用外
零売薬局での購入は、全額自己負担となります。いわゆる保険適用は、保険医療機関や保険薬局を通じた診察や薬剤の支給といった「療養の給付」に当たります。保険が適用される際、患者は年齢等に応じて3割などの一部負担金を支払います。
一方、零売は処方箋に基づかない販売であり、厚生労働省の通知でも「調剤」ではなく「販売等」という語で説明されています。処方箋に基づく調剤をともなわない以上、「療養の給付」の枠組みには含まれません。
健康保険法|e-Gov法令検索(第63条・第74条・第76条)
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通販・オンラインでの購入は原則不可
零売薬局の医薬品を通販やオンラインで購入することは、現行制度では原則できません。薬機法第36条の4などにより、薬局医薬品の販売には対面での情報提供と服薬指導が義務づけられているためです。
改正薬機法の概要資料では、医療用医薬品についても「オンライン服薬指導可」とされています。ただし、零売に相当する場面での具体的な取扱いは、施行に向けて示される省令や通知等を確認する必要があります。改正法の施行後は、医療用医薬品の販売における情報提供・服薬指導の方法が見直される可能性があります。
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零売薬局に関するよくある質問
最後に、零売薬局に関するよくある質問を4つ紹介します。
調剤薬局との違いは?
調剤薬局は、医師の処方箋に基づいて医療用医薬品を調剤し、患者に提供する薬局です。零売薬局とは、取り扱う医薬品の範囲や、患者が薬を受け取るまでの経緯が異なります。
参考資料 処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
零売薬局の医薬品は高い?
価格の水準を示した公的な基準はありません。販売価格は店舗ごとに設定されるため、零売薬局だから高い、安いとは一概にいえないのが実情です。
仕入れ環境の影響は指摘されています。2025年(令和7年)1月に国を提訴した事業者は、医薬品卸大手4社との取引を断られ仕入値が増加したと主張しました。長澤薬品の代表取締役は「特に22年発出の通知が厳しく、これを境に零売薬局が減少した」とも述べています。
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近くの零売薬局はどこで探せる?
零売薬局の一覧のようなものを国などが公式に公表しているものはありません。零売薬局は法令上の業態ではないため、行政が把握・公表する仕組みも設けられていないのが実情です。
参考資料 処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について|厚生労働省
零売薬局の利用にお薬手帳や保険証は必要?
お薬手帳は、持参することが推奨されています。処方されている医薬品の説明書もあわせて持参すれば、確認がスムーズに進むでしょう。
運転免許証など、ほかに本人確認できるものがない場合は保険証も持参しましょう。ただし、保険証を持参しても保険適用にはならない点には注意が必要です。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について|厚生労働省
まとめ:零売薬局の課題と展望
零売薬局は、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方箋なしで販売する薬局の通称です。医薬品アクセスの受け皿としての役割が評価される一方、医師の診断を経ない販売のリスクや、不適切な広告が問題視されてきました。
2025年(令和7年)5月21日公布の改正薬機法により、零売を原則禁止とする枠組みが法律に位置づけられました。この背景には「やむを得ない場合」の解釈を広げて日常的に販売する薬局が増え、想定されていた運用と実際の販売実態との食い違いが生じていたことがあります。
当面の焦点は、2026年(令和8年)9月18日の東京地裁判決と、要件を定める省令等の内容でしょう。また2025年の附帯決議では、国民の医薬品アクセスを阻害しないよう配慮を求めています。制度の行方は、引き続き注視が必要です。


















