2026年度診療報酬改定では、「門前薬局等立地依存減算」が新設された。対象は大きく二つに分かれる。第一は、別表第三の一に掲げる地域に所在し、かつ周辺に他の保険薬局がある中で、特定の保険医療機関への処方箋集中率が85%を超える門前薬局・密集薬局などの類型である。第二は、保険医療機関と同一の敷地内または建物内に所在し、同様に処方箋集中率が85%を超える類型である。いずれも要件に該当した場合は、調剤基本料から15点が減算される。
この改定が注目されるのは、門前薬局をめぐる議論が、もはや一部の薬局形態の問題ではなく、薬局のあり方そのものを問う論点になっているからだ。今回の改定では、処方箋集中率85%以下の薬局を対象に調剤基本料1と同3-ハを2点引き上げる一方、立地依存型薬局への見直しにも踏み込んだ。評価のメリハリを通じて、面分業の推進と地域での機能発揮を促そうとする構図が見えてくる。
門前薬局等立地依存減算とは何か
制度の骨格は比較的明確だ。対象となるのは、特別区・政令指定都市に所在し、かつ水平距離500m以内に他の保険薬局がある保険薬局のうち、特定の保険医療機関に係る処方箋による調剤の割合が85%を超える薬局である。その上で、①200床以上の保険医療機関の敷地境界線から100m以内の区域にあり、その区域内または医療機関敷地内に他の保険薬局が2以上ある場合、②当該薬局の周囲50m以内に他の保険薬局が2以上ある場合、③当該薬局の周囲50m以内に所在する他の保険薬局が②に該当する場合――のいずれかに当てはまれば、「門前薬局等立地依存減算」として所定点数から15点を減算する。
もう一つ重要なのが、医療機関と同一の敷地内または建物内に所在する薬局の扱いだ。こちらも、特定の保険医療機関に係る処方箋による調剤の割合が85%を超える場合は減算対象となる。また、同一建物内または同一敷地内に複数の保険医療機関が所在している場合には、それらを「1つの保険医療機関」とみなして集中率を計算することとされた。医療モール内の複数クリニックから処方箋を応需していても、制度上は「1つの保険医療機関」とみなして処方箋集中率を計算することとなる。
経過措置にも目を向けたい。資料では、2026年5月31日時点で現に指定を受けている保険薬局については、当面の間、この減算の対象外とする考え方が示されている。今回の制度は、まず都市部などへの新規出店抑制を念頭に置いた設計と読むのが自然だ。
26年度診療報酬改定解説[1]‐調剤基本料、門前薬局減算を導入(2026年03月11日 2面)
なぜ今、門前薬局等立地依存減算が導入されたのか
背景にあるのは、「患者のための薬局ビジョン」策定から約10年が経過しても、面分業が十分に進んでいないという政策側の問題意識である。ビジョン策定以降、処方箋集中率の高い、いわゆる門前薬局の割合はむしろ増加し、薬局が医療モールを経営する事例も見られるなど、目標達成のメドが立たないまま約10年が経過したと整理されている。門前依存が固定化したままでは、地域でのかかりつけ機能や面分業が進まないという認識が、今回の制度見直しの出発点にある。
厚生労働省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は、本紙取材に対し、2026年度診療報酬改定について「立地依存型(門前・医療モール型)から脱却し、地域に根ざした対人業務を担う薬局・薬剤師へ転換してほしい」と意図を説明している。また、「薬局が多い地域にさらに新規出店が集中しており、このままでは薬剤師・薬局の都市集中、地方空洞化が進み、最終的に患者さんが困る」とも語っている。つまり今回の減算は、門前立地そのものを否定するというより、都市部過密と地方空洞化、そして立地偏重の構造に政策的な歯止めをかける狙いを持つ。
同氏はさらに、「医療DXが進めば門前薬局でもかかりつけ機能は可能であり、対人業務や地域で必要とされる機能など、薬局の“中身”で患者さんに選ばれることが重要であるのは間違いない。ただ、現段階では実態がそこまで至っていないため、過渡的に立地という形式的な部分で整理せざるを得ない」とも述べた。ここから読み取れるのは、制度の本丸が「門前か否か」という外形だけではなく、最終的には薬局の中身で評価される仕組みへ移したいという行政の方向感だ。
【厚労省 清原薬剤管理官】薬局の立地依存から転換へ‐ビジョン10年で政策誘導(2026年02月20日 1面)
何が変わるのか――薬局経営と出店戦略への影響
この減算は、新規出店の収支設計に直結する。都市部で医療機関近隣や医療モールへの出店を検討する場合、これまでは処方箋応需枚数や集患の見込みが中心的な検討材料になりやすかった。しかし今後は、集中率85%超となるか、同一建物・同一敷地扱いになるか、周辺薬局の密集条件に当たるかといった点が、開設前の重要な論点になる。とくに医療モールでは、複数医療機関を1つの保険医療機関とみなす計算ルールの変更により、見かけ上の分散では逃れにくくなった。
一方で、今回の制度を「単なる出店規制」とだけ理解するのは不十分だ。処方箋集中率が85%以下であれば、新規出店薬局であっても減算を免れる仕組みであることも明記されている。つまり制度上は、「都市部で新規開局したら一律に不利」というわけではない。面分業の推進や、特定医療機関への依存を下げる工夫、地域で選ばれる機能づくりができるかどうかが問われている。
もっとも、既存薬局にとっても無関係ではない。薬事日報の社説では、今回の改定を単なる点数の上げ下げとして捉えるのは適切ではなく、「患者のための薬局ビジョン」策定から10年という節目に、厚生労働省が保険局主導で総括に乗り出したと位置づけるべきだと指摘している。さらに、附帯意見書には、都市部の小規模乱立を解消するための評価のあり方や、医療資源の少ない地域に配慮した評価のあり方を引き続き検討すると明記されたとされる。今は対象外の薬局であっても、立地依存からの転換という流れそのものは、今後の改定でも論点であり続ける可能性がある。
【社説】報酬改定、既存薬局は危機感必要(2026年02月20日)
業界の受け止めは分かれている
岩月進会長率いる日本薬剤師会は、今回改定を全体として「対患者向けの業務にシフトした」と評価している。岩月進会長は、門前薬局等立地依存減算について、「これから出店を考えている人たちには障壁になる政策。日薬としても大賛成というわけではない」と述べたうえで、「社会主義的経済で運営している医療保険の中で資本集約をして収益を上げることがどこまで許容されるかという大きなテーマの一つであると思っている。診療報酬上の議論として評価され、線引きがされたのであれば、日薬としては一定程度容認せざるを得ない」と表明した。制度の趣旨への理解を示しつつも、全面賛成ではないという距離感がうかがえる。
対患者業務に評価シフト‐岩月会長、調剤報酬改定に理解示す 日本薬剤師会(2026年02月16日 2面)
これに対し、日本保険薬局協会(NPhA)の反発は強い。三木田慎也会長は、「到底受け入れられないというくらいの強い抵抗感を持っている」と述べ、「門前立地をターゲットにしたバッシングは、そろそろ卒業していただきたい」とも訴えた。
門前減算撤回求め要望書‐医療モールは維持要望 日本保険薬局協会(2026年02月27日 2面)
門前薬局減算に強い憤り‐三木田会長「到底受け入れられない」 日本保険薬局協会(2026年02月16日 3面)
日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)も厳しい見方を示した。都内で開いた記者会見では、物価高騰や賃金上昇に対応したプラス改定を評価する一方で門前薬局等立地依存減算については、「門前薬局等立地依存減算による都市部への新規開局を抑制する不当な減算項目が、関係団体との十分な議論を一切経ることなく、突如として提示された」と指摘、「この極めて拙速かつ不透明な制度導入の進め方に対し、強い憤りをもって断固抗議する」と表明している。
門前薬局減算に断固抗議‐26年度調剤報酬改定で 日本チェーンドラッグストア協会(2026年02月27日 6面)
薬局はこの改定をどう読むべきか
今回の制度改正でまず押さえたいのは、「門前薬局等立地依存減算」は都市部の新規開設薬局に対する15点減算という個別ルールでありながら、その背景にはより大きな政策転換があるということだ。行政は、立地による効率性だけで成立するモデルを抑え、地域で必要とされる対人業務、在宅、安定供給、服薬フォローなどの機能へ評価の重心を移そうとしている。実際、同じ改定では、服用薬剤調整支援料2に1000点を設定するなど、高度な職能発揮に厚い評価を付ける方向も示された。薬局に求められるのは、単に減算回避の線引きを読むことではなく、どの機能で地域に選ばれるのかを設計し直す視点だ。
その意味で、今回の改定は「立地から職能発揮へ」というメッセージを端的に示している。門前立地がすぐ否定されるわけではない。実際、厚労省側も、門前薬局でも医療DXや対人業務の充実によって、かかりつけ機能を果たす余地があると認めている。ただ、患者に選ばれる理由が「病院の前にあるから」だけでは、今後の制度環境では通用しにくくなる。都市部であれ地方であれ、薬局の“中身”がより厳しく問われる時代に入ったと見るべきだろう。
薬事日報で読む門前薬局等立地依存減算
薬事日報では、今回の見直しをめぐって継続的に報じている。制度の骨格をつかむなら、2026年1月26日付の「【厚労省・26年度改定項目案】面分業進まぬ薬局適正化‐門前薬局立地依存減算へ」、答申後の全体像を確認するなら2月16日付の「【診療報酬改定案を答申】薬剤レビューに1000点設定‐DgSとチェーン薬局で明暗」、政策意図を読むなら2月20日付の「【厚労省 清原薬剤管理官】薬局の立地依存から転換へ‐ビジョン10年で政策誘導」、業界団体の反応を追うなら2月16日付の「門前薬局減算に強い憤り‐三木田会長『到底受け入れられない』」や2月27日付の「門前減算撤回求め要望書‐医療モールは維持要望」などが参考になる。
門前薬局等立地依存減算を理解するには、15点減算という数字だけを見るのでは足りない。なぜ導入されたのか、どの薬局が対象になるのか、行政は何を変えたいのか、そして業界はなぜ反発しているのか――そこまで通して読むことで、2026年度改定が薬局に投げかけた本当の問いが見えてくる。今後の薬局経営や実務対応を考える上でも、この制度は単独項目ではなく、薬局評価の再設計を象徴するテーマとして捉えておきたい。
【26年度改定項目案】面分業進まぬ薬局適正化‐門前薬局立地依存減算へ 厚生労働省(2026年01月26日 1面)
【診療報酬改定案を答申】薬剤レビューに1000点設定‐DgSとチェーン薬局で明暗 中央社会保険医療協議会(2026年02月16日 1面)
【厚労省 清原薬剤管理官】薬局の立地依存から転換へ‐ビジョン10年で政策誘導(2026年02月20日 1面)
門前減算撤回求め要望書‐医療モールは維持要望 日本保険薬局協会(2026年02月27日 2面)
門前薬局減算に強い憤り‐三木田会長「到底受け入れられない」 日本保険薬局協会(2026年02月16日 3面)



















