供給確保医薬品の重要性と選定基準を解説

更新日:2026年02月02日 (月)

 薬学生の皆さん、そして医薬品業界に入って間もない新人の皆さん、「供給確保医薬品」という言葉をご存じでしょうか?これは医薬品の安定供給に関わる新しいキーワードで、今や現場で働く上で避けて通れない重要な概念です。

 実はいま、日本の医療を支える薬の供給がさまざまなリスクにさらされています。原薬を海外に依存する体制や製造上のトラブル、そして記憶に新しい新型コロナ禍での医薬品不足などが重なり、必要な薬を途切れさせないことの難しさが浮き彫りになりました。こうした課題に対応するため、厚生労働省は「安定確保医薬品」という新たな制度を2021年に打ち出し、2025年の法改正で「供給確保医薬品」として法律上位置づけました。

 本記事では、この供給確保医薬品の定義や目的(なぜ重要か)から、選定基準、最新の動向、そして医療現場・患者への影響や政策的な取り組みまでを網羅的に解説します。読み終えたとき、皆さんはこの制度の全体像を把握し、自身の学びや現場でどう活かせるかのヒントを得られるでしょう。

目次

1. 供給確保医薬品とは

1-1. 定義

 「供給確保医薬品」とは、簡単に言えば「医療に欠かせない薬を、途切れさせないために国が特別に指定した薬」のことです。2021年に厚生労働省が「安定確保医薬品」として506成分を選定したのが始まりで、2025年の法改正により、これらは医療法に定められる「供給確保医薬品」として位置づけられました。

 さらに、その中でも特に重要な薬は「重要供給確保医薬品」(A群・B群)として分類され、より強力な供給対策の対象となっています。これらの薬は、命に関わる治療に使われるものや、代替手段がない、または切り替えにリスクがある薬が中心です。なお、A群とB群の違いは相対評価で、法的効果が異なるわけではありません。

1-2. 制度の背景と目的

 この制度が生まれたきっかけは、2019年に起きた抗菌薬「セファゾリン」の供給停止です。国内外の製造トラブルが重なり、一部の医療機関で手術の延期・中止に追い込まれたケースが報告され、現場が混乱しました。

 この事例を受けて、厚労省は「安定確保医薬品」制度を創設。医療現場で必要不可欠な薬をリスト化し、製薬企業や流通業者に対して安定供給の協力を要請できる仕組みを整えました。

 2025年には制度が法制化され、「供給確保医薬品」として正式に位置づけられたことで、行政の関与がより強化されました。

2. 供給確保医薬品の選定基準

 供給確保医薬品に指定される薬は、以下の4つの評価軸に基づいて選定されます。

2-1. 対象疾患の重篤性

 まず重視されるのは、薬が使われる疾患の重篤性です。命に関わる病気や、指定難病など治療法が限られている疾患に使われる薬は、優先的に選定されます。

 例:ノルアドレナリン(ショック時の血圧維持)、プロポフォール(全身麻酔)など。

2-2. 代替薬・代替療法の有無

 次に、代替手段の有無が評価されます。代替薬が存在しない、または副作用などの理由で実質的に使えない場合、その薬は代えが利かない重要な薬とされます。

 例:インスリン製剤(糖尿病患者の生命維持)、アドレナリン(アナフィラキシーショック時の第一選択薬)など。

2-3. 患者数・使用頻度

 多くの患者が使用している薬も、供給停止の影響が大きいため優先度が高くなります。慢性疾患治療薬などがこれに該当します。

2-4. 製造の特殊性・サプライチェーンの脆弱性

 製造工程が複雑だったり、原薬の供給元が限られていたりする薬は、供給不安のリスクが高いため選定対象になります。地政学的リスク(特定国への依存)も考慮されます。

 このように、供給確保医薬品は「命に関わる」「代替が難しい」「多くの人が使う」「作るのが難しい」薬を中心に選ばれています。これらの薬が途切れないようにすることは、医療の安全保障そのものなのです。

3. 供給確保医薬品の現状

3-1. 最新リスト(告示第292号)

 2025年10月27日、厚生科学審議会の医療用医薬品迅速・安定供給部会は、供給確保医薬品のリストを506成分から762成分へ拡大し、そのうち75成分を「重要供給確保医薬品(A群・B群)」とする案を了承しました。同年11月10日に告示され、11月20日から適用されています。

 今回の見直しでは、ワクチンや血液製剤も新たに追加され、より包括的な制度へと進化しました。

 特に注目すべきは、762成分のうち75成分が「重要供給確保医薬品」として分類された点です。これらは、命に直結する治療に使われる薬や、代替が困難な薬であり、供給対策の優先度が高く設定されています。

 リストの詳細は厚労省の公式サイトで公開されており、PDF形式で成分名や分類が確認できます。薬学生や新人薬剤師の皆さんは、まずこのリストを一度見てみることをおすすめします。「この薬、実は重要な位置づけだったんだ」と気づくこともあるはずです。

3-2. 拡大の背景と影響

 コロナ禍を経て、医薬品供給のリスクが社会的に認識されるようになり、国としても「より多くの薬を守る必要がある」と判断しました。

 2025年5月に改正法が成立・公布され、供給確保医薬品制度は同年11月20日から適用(施行)されました。これにより、厚労省は製薬企業に対して生産促進や供給調整を要請できる権限を持つようになり、制度の実効性が高まりました。

 医療現場では、リスト掲載薬の供給状況がモニタリングされ、万が一の不足時にも迅速な対応が可能になります。製薬企業には在庫確保や生産体制の整備が求められますが、厚労省は薬価の特例措置や財政的支援などのインセンティブも検討しています。

4. 供給確保医薬品の役割

4-1. 医療現場での重要性

 供給確保医薬品は、医療現場において「なくてはならない薬」です。たとえば、ショック状態の患者の血圧を維持するために使われるノルアドレナリン、全身麻酔の導入・維持に使用されるプロポフォールなどは、いずれも「重要供給確保医薬品」に分類されています。

 これらの薬は、代替が困難で、供給が途絶えると医療そのものが止まってしまう可能性があります。実際、医療機関ではこれらの薬の在庫状況を常に確認し、供給不安が起きた際には迅速に対応できるよう体制を整えています。

 新人薬剤師や薬学生にとっても、こうした薬の重要性を理解しておくことは非常に大切です。

4-2. 患者・社会への影響

 供給確保医薬品の安定供給は、患者の命を守るだけでなく、社会全体の医療体制を支える重要な役割を果たしています。

 まず患者への影響として、必要な薬が欠品すると治療が中断され、病状が悪化するリスクが高まります。特に代替薬がない場合、治療そのものが不可能になることもあります。また、代替薬があっても副作用や効果の違いにより、患者の負担が増える可能性があります。

 さらに、薬の供給が不安定になると、代替薬への切替や調整が必要になり、結果として患者の負担(治療面・経済面・手間)が増える場合があります。これは特に慢性疾患の患者にとって深刻な問題です。

 社会的な意義としては、供給確保医薬品の制度は、災害やパンデミックなどの非常時にも医療を継続できる体制づくりに貢献しています。医薬品の安定供給は、医療従事者の業務負担を軽減し、医療サービスの質を維持するためにも不可欠です。

 また、原薬の海外依存や製造拠点の集中といったサプライチェーンの脆弱性を補うため、国内生産の強化やリスク分散の取り組みも進められています。

5. 供給確保医薬品に関する政策

5-1. 厚労省の取り組み

 供給確保医薬品制度は、厚生労働省が主導する医薬品安定供給のための国家的な取り組みです。2025年には「医療用医薬品迅速・安定供給部会」が新設され、制度の運用やリストの見直し、供給不安への対応策などが専門的に議論されるようになりました。

 さらに、同年5月に成立した改正薬機法・医療法では、供給確保医薬品および重要供給確保医薬品の安定供給に関する規定が法制化されました。これにより、厚労省は製薬企業に対して以下のような対応を要請できるようになりました:

  • 生産促進の要請(特に重要供給確保医薬品=A・Bを想定)
  • 供給状況の報告徴収・届出等(平時からのモニタリングを含む)
  • 卸売業者・医療機関・薬局などへの協力要請(適正流通、処方への配慮 等)

 また、製造販売業者には供給体制の整備として公布後2年以内の施行事項として「供給体制管理責任者」の設置が求められ、供給計画や在庫・生産管理の手順書整備、関係者との連携を統括します。これは、供給不安が起きる前に察知し、国が早期に対応できるようにするための仕組みです。

 このように、制度は「事後対応」から「事前予防」へと進化しており、医薬品供給の安定性を高めるための実効性ある政策が整備されています。

5-2. 今後の展望

① リストの定期的な見直し

 医療の進歩や治療ガイドラインの変更に対応するため、供給確保医薬品リストは今後も定期的に更新される予定です。厚労省は日本医学会や各専門学会と連携し、数年ごとを想定した品目とカテゴリの定期見直しを行う方針を示しています。

 薬学生や新人薬剤師にとっては、「次の見直し」に備えて制度の動向を常にチェックしておくことが重要です。業界紙や厚労省の通知などを通じて、最新情報にアンテナを張る習慣をつけましょう。

② 企業支援策とのバランス

 供給確保医薬品に指定されることで、企業には在庫確保や増産体制の整備などの負担が生じます。これに対して厚労省は、薬価の特例措置や財政的支援などのインセンティブを検討しています。

 たとえば、指定品目に対しては備蓄費用の一部補助や、緊急輸入時の手続き簡素化などが議論されています。制度の持続可能性を高めるためには、「指定されることで得られるメリット」も明確にする必要があります。

③ サプライチェーンの強靭化

 供給確保医薬品制度は、医薬品の安定供給を支える「安全保障政策」としての側面も持っています。今後は、原薬の国産化や製造拠点の多元化、国内共同受託製造の推進など、サプライチェーン全体の強化が重要な課題となります。

 これは短期的には難しい取り組みですが、長期的には医療の安定性を支える基盤づくりとして、国を挙げて進めていくべきテーマです。

6. まとめ

 供給確保医薬品制度は、医薬品の安定供給を守るために国が整備した重要な仕組みです。命に関わる薬、代替が難しい薬、多くの患者が使う薬、製造が難しい薬――こうした医薬品をリスト化し、供給不安を未然に防ぐことで、医療の安全性と持続性を支えています。

 2025年の法改正により、制度は「安定確保医薬品」から「供給確保医薬品」へと進化し、より強力な対策が可能になりました。762成分への拡大、重要供給確保医薬品の指定、企業への生産要請や報告義務など、制度の実効性は大きく高まっています。

 薬学生や医薬品業界の新入社員にとって、この制度は単なる知識ではなく、現場で役立つ「実践力」に直結するものです。たとえば、薬局で在庫管理をする際に「この薬は供給確保医薬品だから優先的に確保しよう」と判断できること。病院で患者対応をする際に「この薬が不足する可能性があるから代替案を考えておこう」と準備できること。こうした対応力は、現場で信頼される薬剤師になるための大きな武器になります。

 また、制度の動向を追うことで、医薬品政策や医療安全保障の視点を養うこともできます。業界紙や厚労省の通知を定期的にチェックし、制度の見直しや新たな指定薬の情報にアンテナを張る習慣をつけましょう。

 供給確保医薬品制度は、医薬品不足という困難な課題に立ち向かうための「盾」であり、同時に若手薬剤師が成長するための「チャンス」でもあります。

 この制度を理解し、現場で活かすことで、皆さんは医療の最前線で真のプロフェッショナルとして活躍できるはずです。

 ぜひこの知識を武器に、未来の医療を支える担い手として一歩を踏み出してください。



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