患者のための薬局ビジョンとは
「患者のための薬局ビジョン」は、2015年に国が策定した方針であり、2025年までに従来の「門前薬局」中心の業態から、すべての薬局をかかりつけ薬局へ転換することを目指しています。このビジョンは、薬局を単なる調剤拠点ではなく、患者に価値を提供する地域の健康拠点として位置づけることを目的としています。
その中核となる取り組みは、①服薬情報を一元的かつ継続的に把握し、薬学的管理と服薬指導を行うこと、②24時間対応や在宅医療を支える体制の構築、③医療機関や他職種との連携です。これらにより、患者の安全で適切な薬物療法を支える仕組みを整えます。
さらに、薬局には健康サポート機能や高度薬学管理機能(例:抗HIV薬の選択支援など)が求められています。これにより、薬学的知識を活用して医薬品への理解を深め、安全性を確保する役割が強化されます。
こうした複雑で多様な機能を実現するため、ICTの活用も重要な柱として明記されています。ICTを通じて情報共有や遠隔支援を可能にし、地域全体で患者を支える体制を構築することが期待されています。
「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました(厚生労働省)
患者のための薬局ビジョン(本文PDF)(厚生労働省)
資料1(その7)「患者のための薬局ビジョン」関連(内閣府)
「対物中心」から「対人中心」へ
2015年に「患者のための薬局ビジョン」が策定された背景には、医薬分業の進展により薬局の数が増えた一方で、「門前薬局の乱立」などの問題がありました。その結果、患者の服薬情報が一元化されず、薬局本来の患者本位の機能が十分に発揮されていない状況が生じていました。
こうした課題を受け、国は薬局の再編に向けた方向性を示しました。その中心となるのが、かかりつけ薬剤師・薬局の役割を明確化することです。具体的には、①服薬情報の一元的・継続的な把握、②24時間対応や在宅医療への対応、③医療機関等との連携という3つの柱を掲げ、薬局の機能強化を図ることが求められました。
このビジョンの目的は、従来の「対物中心」の業務から「対人中心」へと転換し、患者の薬物療法を継続的に支える薬局の役割を再定義することにあります。これにより、薬局は単なる調剤拠点ではなく、地域における患者支援の中核として機能することが期待されています。
患者のための薬局ビジョン(本文PDF)(厚生労働省)
「患者のための薬局ビジョン」策定の報道発表(厚生労働省)
地域における薬局・薬剤師のあり方について(検討会資料)(厚生労働省)
かかりつけ薬局の推進と地域連携の仕組み
かかりつけ薬局の役割と重要性
「患者のための薬局ビジョン」では、2025年までにすべての薬局がかかりつけ薬局として機能することを目標としています。かかりつけ薬局は、患者の服薬情報を一元的かつ継続的に把握し、重複投薬や薬物相互作用の防止、さらに薬の効果や副作用の有無を確認することで、安全で適切な薬物療法を支える役割を担います。
こうした機能を十分に発揮するためには、患者が医薬品に関して不安や疑問を抱いた際に、電話などで相談できる体制が不可欠です。そのため、24時間対応や在宅医療への対応が求められています。これにより、薬局は単なる調剤拠点ではなく、患者の生活に寄り添う存在となります。
また、患者との信頼関係は一度の説明で築けるものではありません。日常的な薬学的管理の積み重ねを通じて、継続的なコミュニケーションを図ることが重要です。こうした取り組みが、かかりつけ薬局の本質的な価値を高めます。
このビジョンの実現に向けて、10年間の取り組みの中で「健康サポート薬局」や「認定薬局」などの制度が整備され、地域における薬局の役割は着実に進化してきました。今後は、これらの制度を活用しながら、すべての薬局が患者にとって信頼できるかかりつけ薬局となることが期待されています。
地域医療との連携強化
「患者のための薬局ビジョン」では、薬局の役割として医療機関等との連携を中核に据えています。具体的には、疑義照会や処方提案のフィードバック、医療情報連携ネットワークを通じた情報共有などを通じて、薬局が医療チームの一員として機能することが求められています。
こうした連携は、地域包括ケアの実現において重要な意味を持ちます。特に、在宅療養者に対する薬学的管理や、夜間・休日の相談対応は、地域で患者の健康を守るための協力体制の要となります。
一方で、これらの機能をすべての薬局が単独で担うことは困難です。そのため、地域の薬局同士が連携し、必要なサービスを分担して提供する仕組みが不可欠であると、検討会資料でも指摘されています。
制度面では、こうした連携を促進するために「地域連携薬局」や「専門医療機関連携薬局」といった制度が整備されました。これにより、地域での役割分担が明確化され、患者に対して切れ目のない薬学的支援を提供する体制が強化されています。
患者のための薬局ビジョン(本文PDF)(厚生労働省)
「患者のための薬局ビジョン」策定の報道発表(厚生労働省)
薬局・薬剤師に関する情報(健康サポート薬局/認定薬局等)(厚生労働省)
資料1(その7)「患者のための薬局ビジョン」関連(内閣府)
地域における薬局・薬剤師のあり方について(検討会資料)(厚生労働省)
薬局・薬剤師に関する情報(認定薬局等)(厚生労働省)
患者のための薬局ビジョンの達成度
2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」は、2025年までにすべての薬局が「かかりつけ薬局」としての機能を発揮することを目標として掲げました。この点について見ると、制度整備の面では一定の前進が見られます。かかりつけ機能を明確化し、その実装を後押しする仕組みが段階的に構築されてきたためです。
具体的には、健康サポート薬局制度の創設に続き、地域連携薬局や専門医療機関連携薬局といった認定制度が導入されました。これにより、薬局が担う医療・健康支援機能を可視化し、名称や表示を通じて「その薬局が地域でどのような役割を果たすのか」を示す仕組みが整えられました。従来は外部から分かりにくかった薬局機能について、一定の情報提供手段が整備された点は、制度面での成果と言えます。
しかし一方で、厚生労働省の検討会資料などでは、健康サポート薬局や各種認定薬局について、「利用者にとっての具体的なメリットが分かりにくい」「十分に活用されているとは言い難い」といった課題が指摘されています。認定を受けた薬局の数は増加しているものの、それが患者の行動変容や薬局選択に必ずしも結び付いておらず、制度の普及・定着は、なお道半ばと言わざるを得ません。
こうした状況を踏まえると、現在は「個々の薬局が要件を満たす」段階から、「地域全体として患者中心のサービスをどのように実装するか」を問う段階へと移行しつつあると言えます。服薬情報の一元的な把握、24時間対応や在宅医療への関与、多職種・多機関との連携といった本来のかかりつけ薬局機能を、薬局単独ではなく地域特性に応じた体制として再設計していくことが、今後の重要な課題となっています。
患者のための薬局ビジョン(本文PDF)(厚生労働省)
資料1(その7)薬局再編の全体像「立地から機能へ」(内閣府)
地域における薬局・薬剤師のあり方について(検討会資料)(厚生労働省)
薬局・薬剤師に関する情報(健康サポート薬局/認定薬局)(厚生労働省)
今後の展望と課題:2026年以降に向けた取り組み
2025年という節目を越えて次に問われる論点は、かかりつけ薬局の機能を「個々の薬局(点)」としてではなく、「地域(面)」として成立させることです。単一の薬局がすべての機能を完結的に担う従来の発想から、地域全体で患者を支える体制へと転換することが求められています。
そのためには、具体的な目標を明確に設定し、地域で機能を補完し合う設計が必要です。例えば、電子版お薬手帳などのICTを活用した服薬情報の一元的・継続的な把握、24時間対応や在宅医療への関与、医療機関や介護サービスとの連携といった要素について、個々の薬局の対応力の差を地域内連携によって補う仕組みを構築することが重要となります。
また、健康サポート薬局や地域連携薬局などの認定制度については、「違いが分かりにくい」という従来からの課題を踏まえ、住民にとっての具体的なメリットをより分かりやすく示す必要があります。制度要件の説明にとどまらず、「どのような場面で、どのような支援が受けられるのか」を言語化し、患者や住民にとって選ばれる理由として提示していくことが求められます。
さらに、デジタル技術の活用についても、業務効率化にとどめず、患者との接点を改善する視点が重要になります。例えば、薬剤情報提供書の内容や提供タイミング、説明方法の導線を再設計することで、患者の理解や納得感を高めるといった取り組みが考えられます。テクノロジーを「現場の負担軽減」だけでなく、「患者中心の体験向上」に結び付けていく発想が、今後のかかりつけ薬局機能の質を左右する鍵となります。
地域における薬局・薬剤師のあり方について(検討会資料)(厚生労働省)
患者のための薬局ビジョン(本文PDF)(厚生労働省)
薬局・薬剤師に関する情報(制度一覧)(厚生労働省)
薬事日報で読む患者のための薬局ビジョン
薬事日報は、「患者のための薬局ビジョン」が策定された背景から現在までの動きを取材し記事としてきました。
2015年5月、厚生労働省は2025年を目標年次として、全国の薬局を「かかりつけ薬局」としての機能を中心に再編していく方針を示しました。薬事日報は同年10月のビジョン公表を速報し、「立地から機能へ」という発想の転換を軸に、「24時間対応・在宅医療への対応」「医療機関との連携」といった主要な柱を整理し、ビジョンの全体像を分かりやすく伝えました。
2016年にはビジョン実現に向けた推進事業の動向を追い、2017年には具体的行動計画として示されたアクションプランの内容と課題を検証しました。さらに2019年にはKPI(重要業績評価指標)調査の結果を取り上げ、電子お薬手帳の導入率が48.1%にとどまっていることなど、制度と現場のギャップを数値で示しました。
2020年以降は、ビジョンの具体化が制度設計やデジタル基盤、評価の枠組みへと移り、報道の焦点も変化してきました。地域連携薬局や専門医療機関連携薬局の制度については、認定基準の考え方や認定数の推移を継続的に報じ、地域における薬局の役割分担の実態を明らかにしています。また2025年を見据えて、電子処方箋の普及状況や新たな目標が注目されるとともに、PMDAによる患者向医薬品ガイドの見直しなど「患者にとって分かりやすい情報提供」を巡る動きにも関心が向けられています。
過去の記事と最新の報道を読み合わせることで、患者のための薬局ビジョンが、理念から制度、ICT、評価指標へと段階的に具体化してきた流れを把握することができるのではないでしょうか。
【厚労省】25年メドに全薬局を「かかりつけ」へ‐再編に向け年内にビジョン策定
【厚労省】「薬局ビジョン」まとまる‐門前薬局、建替え契機に地域へ(2015/10/26)
【厚労省】患者のための薬局ビジョン推進事業、32事業・30道府県で実施へ(2016/07/12)
【厚労省】薬局改革でアクションプラン‐ビジョン実現へ基本的方針(2017/04/26)
【厚労省KPI調査】電子お薬手帳の導入48%‐昨年度比13ポイント増を評価(2019/05/15)
【厚労省】薬局認定制度の基準示す‐薬機法規則改正で省令案(2020/10/12)
【厚労省】地域連携薬局、全国836軒‐“専門”は48軒と少なく(2021/10/29)
【厚労省】電子処方箋推進へ新目標‐電カル共有と一体的推進(2025/07/04)























