日本の医療や健康が世界情勢に強く揺さぶられている。中東情勢の影響で医療分野にも汎用されるナフサ由来原材料や資材の供給が滞っている。原燃料費の上昇もあり医療現場、産業界からも悲鳴が上がる。この問題は、政府が対応を仕損じれば世界一と言われる日本の医療・健康水準の低下を招きかねないと考える。
薬局での困難の一例は軟膏容器の不足。関係メーカーによると、先行き不安や原材料不足で出荷調整や納期未定となった。メーカー側は容器リサイクルを検討したが、衛生面の懸念などで断念した。首相官邸は「供給の偏り・流通の目詰まりの解消案件」(20日時点)を列挙し、医療分野ではダイアライザーの製造用溶剤、透析用チューブ、医薬品の製造用溶剤などの供給問題が解消したと公表したが、これら事例は逆に医療現場の困難さを見た思いだった。
日本製薬団体連合会がまとめた政府の「骨太の方針」への要望事項では「国内自給率25%の現状を国家安全保障の問題」と指摘し、▽合成出発原料や原薬を国内で賄う目標値の設定▽国内製造体制構築のための補助金や適切な薬価設定▽政府による備蓄拡充・在庫の補償――を求める。
これら一連の問題が深刻なのは、製造・供給の量だけでなく一過性ではないコストの上昇も孕んでいるためだ。
海外CDMO関係者は、インフレが日本以上に進む欧州での原薬の材料費の連続的な値上げ通告を明かし、円安分が上乗せされる日本の顧客には価格の高さに驚かれた。航空輸送の減少による品薄、運賃を含む値上がりが起き、納期遅れの懸念も出ている。国内CDMO関係者からも資材などの「値段が数倍に跳ね上がっている」との声がある。
卸流通では不採算取引、人件費、燃料費等の増加は1%程度の営業利益率を削り、流通網を脆弱化しかねない。
費用高騰は夏以降、より厳しくなるとの見方が強い。これらコストの回収面から、日本の薬価水準の低さが問題視されている。
輸液製剤協議会は「急激な原料価格、エネルギーコストの上昇で医療に欠かすことができない重要な医薬品の安定供給に支障を来す恐れが高まっている」と指摘する。汎用される低薬価品も同様だ。
新薬も革新性に報いる薬価水準でなければ、日本での開発、上市が避けられ、最新治療の提供に支障が出る。20日に薬価収載されたiPS細胞製品でさえ、承認取得した住友ファーマによると薬価は希望より低く「赤字」という。
米国研究製薬工業協会の五十嵐啓朗在日執行委員長は4月、今後の企業行動について「地政学的リスクも増大し、国それぞれの魅力を見極め、どこに投資するかを選別する時代に入った」と指摘した。
対策の各論は中央社会保険医療協議会など厚生労働省の審議会での議論になる。世界情勢、伸び悩む対日投資、日本の成長戦略を踏まえた議論が必要だ。



















