注射用抗癌薬の個別用量設定をめぐって、米国や英国を中心に運用の見直しが進んでいる。患者の体格等に応じて個別用量を決める原則は不変だが、許容範囲内でバイアルの規格用量や標準用量帯に合わせることで、残液の発生や廃棄を減らすのが狙い。日本も海外の動向に目を向ける必要がある。
米国では、血液・腫瘍領域の薬剤師団体であるHOPAが2017年に公式見解をまとめた。注射用抗癌薬を対象に、患者個別の用量をプラスマイナス10%の範囲内でバイアル製剤の規格用量に合わせる「ドーズ・ラウンディング(DR)」を推奨している。以前から一部の施設で先行していた取り組みをHOPAが整理したもので、普及の支えになっているようだ。
一方、英国では、患者ごとに算出した投与量を予め設定した標準用量帯に集約して調製用量を標準化し、残液や廃棄を減らしやすくする「ドーズ・バンディング」が行われている。英国の国民保健サービスであるNHSイングランドは、全国用量バンディング表を公表。英国の医療技術評価機関であるNICEは24年の公式見解で、取り組みを支持した。国家施策の整備が進んでいる。
世界的な動きの背景には、共通する課題がある。注射用抗癌薬の患者個別投与量は、身長や体重に基づいて細かく算出することが多いため、算出値に基づきバイアルから必要な分を抜き取ると残液が発生し、高額な薬剤を廃棄せざるを得なかった。近年、薬剤不足や環境負荷への関心も高まる中、個別化を維持しつつ無駄を減らす取り組みが求められていた。
日本ではこれまで、注射用抗癌薬の残液廃棄を減らす対策として、バイアルの残液を複数患者に分割使用して廃棄を減らす「薬剤バイアル最適化(DVO)」が行われてきたが、課題は残っている。
癌患者数が少ない施設ではDVOを実施しても、その効果は乏しい。DVOを実施し、患者に使用分のみ費用を請求することは理に適っているが、最終的な残液の発生は避けられず、その分は病院の持ち出しになってしまう。そもそもDVOを行わず残液を廃棄した場合には、その費用を患者に請求できるため、DVO実施の動機が生まれにくいのが現状だ。
こうした中、国内でも神奈川県立足柄上病院が昨年3月から、米国型のDRを開始した。持続可能な医療体制の構築が日本の課題になる中、高額な抗癌薬を廃棄することに心を痛めていた薬剤師が院内で提案し、医師らの合意を経て始まった。実際に抗癌薬の残液廃棄抑制につながったほか、バイアルの全量を使うため薬剤師の調製業務も容易になったという。
日本でも今後、DVOの実施を広げるだけでなく、海外で進む取り組みを参考に、注射用抗癌薬の残液廃棄を減らす仕組みをどう構築するかを議論すべきではないか。




















