
左から三堀氏、山口氏
神奈川県伊勢原市内で4軒の薬局を展開する中央堂薬品は昨年2月、旧店舗を取り壊して建て替え、新しい「中央堂桜台薬局」をオープンさせた。新店舗の建設に当たっては、BCP(事業継続計画)を推進する一環として、非常用のガス発電機を設置した。これにより災害等で停電が発生した場合、自動的に非常用電源に切り替わって、薬局業務を支障なく続けられる体制が構築された。今後は震災などが発生した際、調剤等に従事する人員の確保と共に、どこの薬局に行けば処方箋調剤やOTC・衛生用品等の入手が可能かという情報を、医療機関、住民を含めた地域全体で共有する仕組みが重要になろう。
望星薬局がBCP策定‐目標は継続的な医療提供
伊勢原市にある東海大学病院の基幹薬局として知られる望星薬局は、2017年にBCPを策定した。首都圏で震度6弱以上の大規模地震が起きた場合を想定し、社員等の安全確保と事業の継続を目的としたものだ。全社共通の方針に基づいて各店舗はそれぞれの事情を勘案して薬局版を作成することにしている。
このBCPでは、事業継続を図る際の基本方針として、[1]従業員・家族、患者の安全の確認と確保[2]早期に運営基盤を回復し、従業員の雇用を守る[3]医薬品の安定供給を通じ、かかりつけの患者、地域避難者への医療提供――の3点を掲げた。その上で、災害リスクを想定して平時から準備を整えること、計画に基づく行動がとれるよう教育・訓練を行うことを求めている。
中央堂薬品は望星薬局グループの一員であり、傘下の各薬局は望星BCPの実践に向けて準備を進め、訓練も行っていた。「災害など有事の際にも、最低限の調剤を実施できる体制を目指す」ことがBCPで示された方針のため、災害で停電が発生したことを想定し、電気がない状態での調剤がどこまで可能かも訓練で確かめた。
当然、レセコン、分包機、自動天秤などは使えないし、薬袋も手書きで作成せざるを得ない。それ以前に照明がないから、全ての調剤業務を暗い中でこなすことになる。桜台薬局の管理薬剤師である三堀賢太郎氏によれば、訓練に参加した人たちからは、「最低限の調剤と言われても、やはり電源がなければ厳しい」と、困難を訴える声が大半を占めたという。
一方で老朽化が進んだ桜台薬局について、別の場所に仮店舗を設けて建て替えを行うことになり、最終的に新店舗が完成したのは1年半前、昨年2月のことであった。新しい薬局を建設するに際しては、災害想定訓練で明らかになった「電源は不可欠」という課題を解決するため、非常用発電機の導入が提案された。
発電装置の機種選定は、望星薬局事務部次長の山口浩氏が、グループ企業で設備等の施工を手掛ける山王総合の助言を得ながらサポートに当たった。山口氏によると、最初に思い浮かべたのは太陽光発電だったという。それに対し山王総合からは、「建物の広さから見て、この屋根に太陽光パネルを張っても、調剤を賄うだけの発電量を得るのは難しい」と指摘された。
次には蓄電池を備えて電気を貯めて、有事の際に使う方式を考えたが、「蓄電池はコストパフォーマンスが良くないし、3日分も賄うには相当な量が必要になる。さらに放電も起きるから、太陽光と蓄電池の組み合わせも得策とは言えない」との見解であった。
有事への適性を重視‐全調剤機器の利用を視野

設置されたジェネラックのガス発電機
悩んだ末に、何か名案はないかと山王総合に尋ねたところ、ホーユーが同社に出入りしていた関係もあって、ガス発電を考慮してはどうかというアドバイスを受けた。そこから非常用LPガス発電機の検討が始まった。
最終的にガス発電を選択した理由を山口氏は、「決め手となったのは、ガスボンベは劣化が少ないこと。有事への対応としては、太陽光発電よりも適性が高いと考えた」と述べている。
ホーユーが販売する非常用ガス発電機は、アメリカのジェネラックが開発、製造しているもの。発電規模に応じて小型のガーディアン、中型のプロテクター、大型のインダストリアルという三つのタイプがラインアップされている。
桜台薬局が購入したのは、ガーディアンシリーズの中でも最も小型のG508という製品。とはいえ幅123cm×奥行き65cm×高さが73cmとエアコンの室外機を4台並べたくらいの大きさで、重量も150kgを超えるから、設置するにはそれなりのスペースが必要になる。
発電できる時間は、50kgのLPガスボンベ1本で50%負荷なら27.7時間、100%負荷なら14.8時間。桜台薬局にはLPガスボンベが6本備蓄されているので、50%負荷なら162時間(6.7日)、100%負荷なら88時間(3.6日)の稼働が可能となる。
桜台薬局では災害時、この非常用電源で照明と全ての調剤関連機器、具体的にはレセコン、プリンタ、分包機、秤、冷蔵庫などを賄う計画である。停電になった際には、自動的に非常用電源に切り替わり、支障なく動くことも確認している。ただしエアコンだけは三相電源になっており、それ以外の単相電源と規格が異なるため使用できない。
そのほか、市内の4店舗で保管されている冷所保存医薬品について、有事の際には桜台薬局の冷蔵庫に集めることも想定されている。
ガス発電機を設置して1年半、まだ実際に停電になったことはないそうだが、今年のゴールデンウイーク中に伊勢原市内で大規模な停電が発生するニアミスを経験したという。三堀氏は、「幸いに桜台薬局は停電しませんでしたが、仮に停電になったとしても非常用電源に切り替わるから心配ない。そういう安心感はすごく大きかったです」と導入の効果を挙げた。
また、災害に対する職員の意識や行動については、「今のところ発電機の導入で大きく変化したとは思いませんが、緊張感を持って訓練を繰り返すことで、少しずつ実感が伴ってくるのではないでしょうか」と期待感も示している。
一方、訓練などで機械を動かして、一つ気になったのは騒音だという。エンジンなのでやむを得ないとはいうものの、三堀氏は「縁日などで見かける発電機のサイズを大きくしたものですから、大型バイクがアイドリングを続けているような感覚で、かなりの爆音が響きます。ただ、稼働するのは災害時ですから、住民の理解も得られるとは思いますけれど、平時だったら抗議が来るかもしれませんね」と笑いながら話した。
BCP対応が一歩前進‐薬局の情報、地域に周知を
桜台薬局における非常用発電機の整備は、中央堂薬品にとっては一つのモデルケースと言えそうだ。停電時の有用性が実証されれば、他店舗への設置も検討していく可能性があるという。ただし、新たに導入するには、様々な条件がつく。設置場所として一定の広さの場所を確保する必要があるし、当該店舗が賃貸物件であれば、所有者から工事の許可を得なければならない。特に既存店舗に設置する場合は新築以上に困難が伴うため、導入の是非について慎重な判断、見極めが必要になる。
今回、桜台薬局はBCP対策という面で、階段を一つ上がったことになる。薬局が非常用発電機を設備する意義としては、震災などの有事に際しても、地域住民に医薬品の提供を続けられることが最も大きい。それ以外にも三堀氏は、電源を必要とする要介護者や要支援者、あるいは在宅酸素療法が適応となっている患者などに対して、電源が利用できる場を提供することもメリットだと指摘した。
しかし、こうした機能を災害時などに有効に働かせるためには課題もある。その一つが、どこの薬局に行けば処方箋を応需してくれるか、OTC医薬品や医療用品を販売している薬局はどこか等の情報が、医療機関-薬局-住民の間で共有されなければいけないこと。災害が起きた時に地域薬剤師会が各薬局の状況、すなわち営業しているか、電源は確保できているか等を把握し、行政と協力して医療機関や住民に情報を伝達する役割を果たすべきであろう。三堀氏によれば、伊勢原市薬剤師会も年に1回、そういう状況を想定した訓練を実施しているという。
さらに、震災時などは交通機関が麻痺する可能性も高い。調剤等の薬事業務に従事する人員をいかに確保するか、その手段を講じておくこともBCP対応には不可欠である。


















