政府は7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる骨太の方針2026を閣議決定しました。創薬・先端医療は17の戦略分野の一つに位置付けられ、官民投資を進める重点分野として示されました。一方で、2027年度薬価改定や費用対効果評価制度の見直し、医療提供体制の再編も盛り込まれています。薬局や薬剤師については、最終版で地域住民の健康増進に資する役割強化が明記されました。骨太の方針をどう読み解けばよいのか、新人記者のおかっちが先輩のK山記者のもとを訪れました。
骨太の方針とは何か
新人おかっち 「骨太の方針」とは、そもそも何でしょうか。
先輩K山 骨太の方針は、政府が毎年まとめる経済財政運営の大きな方針だ。翌年度以降の予算編成や制度改革の方向を示している。いわば、これから政策を具体化するための設計図だね。
新人おかっち 設計図ということは、法律や通知のように、すぐ現場のルールが変わるものではないのですね。
先輩K山 そういうことだ。骨太の方針に書かれたからといって、その日に薬価や調剤報酬、薬局の施設基準が変わるわけではない。「政府は今後、この方向で予算や制度を検討していく」と読むのが基本だ。
新人おかっち まずは製薬企業の視点で、骨太の方針のどこから見ていけばよいですか。
先輩K山 最初に押さえたいのは、「創薬・先端医療」が17の戦略分野の一つに入ったことだ。医薬品や先端医療を、社会保障費の中で管理するだけではなく、日本の成長につなげるために官民で投資する分野として位置付けている。ここが大きなポイントだね。
新人おかっち 製薬企業にとっては、かなり大きな位置付けですね。
先輩K山 そうなんだ。骨太の方針では、17の戦略分野を中心に、危機管理投資や成長投資を官民で進めるとしている。創薬についても、研究開発だけではなく、製造・供給、流通、スタートアップ支援、人材育成、国際展開まで幅広く見ている。創薬を成長経済の牽引役にしよう、という考え方が見えるね。
新人おかっち 一方で、薬価や給付の見直しも同じ方針に入っていますね。
先輩K山 医薬品は成長投資の対象として期待される一方、社会保障制度を持続させるために、薬価や保険給付の見直しも求められる。骨太の方針には、2027年度薬価改定の実施も明記された。創薬を後押ししながら、医療保険財政とのバランスも取るという、いわば両にらみの方針なんだ。
新人おかっち 具体的には、どのような医薬品が積極的な投資の対象になるのでしょうか。
先輩K山 革新的な医薬品の研究開発や国内投資を促す方向が示されている。具体的には、ファーストインクラスやベストインクラスの製品、バイオ医薬品、再生医療等製品、感染症対応製品などだ。日本の成長や医療の質の向上につながる分野に、重点的に投資しようとしているわけだね。
新人おかっち ファーストインクラスやベストインクラスという言葉は、少し難しく感じます。
先輩K山 ファーストインクラスは、世界で初めての作用機序を持つような薬を指すことが多い。少し言い換えると、これまでにない仕組みで病気に働きかける薬だね。一方、ベストインクラスは、同じタイプの薬の中でも、有効性、安全性、利便性などに優れる薬というイメージだ。
新人おかっち 製薬企業にとっては、追い風と見てよいのでしょうか。
先輩K山 追い風になる面はある。ただ、手放しで追い風と言い切るのは早い。新薬が初めて保険適用され、薬価が付く初収載時の画期性評価や、特許期間中の薬価のあり方、市場拡大再算定なども論点になるからだ。革新的な新薬への投資を促しながら、保険財政とのバランスをどう取るのかが焦点になる。
新人おかっち 費用対効果評価制度の見直しは、この流れの中でどう位置付ければよいですか。
先輩K山 費用対効果評価制度も、その流れの中で見ておきたい。これは、医薬品や医療技術によって得られる効果と、かかる費用とのバランスを見る仕組みだ。ただ、革新的な薬ほど、価値をどう測るかは難しい。日本製薬工業協会も、合理性や透明性を確保し、イノベーションを阻害しない制度にする必要があると要望している。
新人おかっち 創薬を後押ししつつ、薬価や給付の見直しも進める。製薬企業にとっては、期待と課題が同時に示された形ですね。
先輩K山 その理解でいい。成長分野に選ばれたという大きな方向だけではなく、具体的な薬価制度や費用対効果評価がどう見直されるかまで追う必要がある。
医療提供体制はどう変わるのか
新人おかっち 医療の視点で見ると、骨太の方針のどこがポイントになりますか。
先輩K山 大きく言えば、必要な医療や介護を将来も提供できるように、社会保障制度の持続可能性を高めていく方針だ。国民皆保険を守りながら、給付と負担のあり方も見直していく。限られた人材や財源をどう生かすか、という視点が全体を通じて流れているね。
新人おかっち 医療提供体制では、病床数や医療機関の役割分担を見直すということですか。
先輩K山 その理解でいい。骨太の方針では、2040年に向けて病床数の適正化を進め、2027年度以降の地域医療構想を踏まえて、医療機関の連携や再編、集約化を促すとしている。すべての医療機関が同じ機能を持つのではなく、地域の実情に合わせて役割を分担し、質の高い医療や介護を効率的に提供する体制をつくろうとしているんだ。
新人おかっち 地域包括ケアシステムの深化も、その流れに含まれるのでしょうか。
先輩K山 そう見ておきたい。地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるように、医療、介護、予防、住まい、生活支援を地域で結び付ける考え方だ。骨太の方針では、その仕組みをさらに深めながら、地域の実情に合った医療・介護の提供体制をつくる方向が示されている。
新人おかっち 骨太の方針には、医療DXやAIの活用も出てきます。
先輩K山 狙いは、DXや多職種連携を通じて生産性を高め、サービスの質も確保することだ。電子カルテや電子処方箋の普及、医療と介護の情報連携、医薬品データベースの構築などが盛り込まれている。単に紙をデジタルに置き換えるのではなく、情報をつないで現場の負担軽減や医療の質向上に生かす、という話だね。
新人おかっち 予防医療も強調されています。
先輩K山 病気になってから治療するだけではなく、予防や早期発見、早期介入にも力を入れるということだ。大事なのは、「攻めの予防医療」として、個人に健康管理を任せるだけではなく、健康増進、肥満症を含む疾病予防、行動変容に医療機関や薬局などの関係機関が連携して支える方向が示されていることだ。
新人おかっち 一方で、保険給付の適正化という言葉も出てきます。患者負担がすぐ変わるという意味ですか。
先輩K山 そこは慎重に見た方がいい。骨太の方針に論点が書かれたからといって、患者負担が直ちに変わるわけではない。ただ、70歳以上の窓口負担割合や介護保険の2割負担の判断基準、OTC類似薬の保険給付など、患者の負担や給付に関わる見直しが検討課題として示されている。今後の制度設計を追う必要があるね。
新人おかっち 薬に関する見直しでは、何を押さえるべきですか。
先輩K山 長期処方、リフィル処方箋、地域フォーミュラリの全国展開、休薬・減薬などが挙げられている。いずれも、給付の効率化や適正化を進めながら、医療の質をどう保つかという論点だ。セルフメディケーションの推進に向けて、医薬品や検査薬のスイッチOTC化を進める方策も検討するとしている。
新人おかっち リフィル処方箋や地域フォーミュラリは、どのような仕組みですか。
先輩K山 リフィル処方箋は、症状が安定している患者について、一定の期間内で同じ処方箋を繰り返し使える仕組みだ。地域フォーミュラリは、地域の医療関係者が有効性、安全性、経済性などを踏まえて、使用を推奨する医薬品をまとめたものと考えると分かりやすい。どちらも、薬を適切かつ効率的に使うことにつながる仕組みだね。
新人おかっち 薬剤師の業務にも関係してきますね。
先輩K山 もちろん関係してくる。長期処方やリフィル処方箋の活用が広がれば、患者が同じ薬を使い続ける間に、薬剤師が服薬状況や体調の変化、副作用の有無を確認する役割はさらに重要になる。処方箋を受け付けて薬を渡すだけではなく、服薬期間中も患者を支える視点が欠かせなくなるんだ。
薬局・薬剤師の役割はどう広がるのか
新人おかっち 薬局・薬剤師の役割強化は、原案から最終版で追加されたと聞きました。
先輩K山 そうなんだ。6月30日の原案にはなかった「地域住民の健康増進に資する薬局機能及び薬剤師の果たす役割の強化」という文言が、最終版の「攻めの予防医療と疾病対策」に加わった。薬局を処方箋調剤だけの場ではなく、地域の健康づくりにも関わる存在として政府文書に明記された。
新人おかっち 薬局は、処方箋調剤だけでなく、健康相談や予防にも関わるということですか。
先輩K山 そういう方向だ。従来の薬局業務は、処方箋を受けて調剤し、服薬指導を行うという流れで語られることが多かった。でも、求められる役割はそれだけではなくなっている。健康づくりや疾病予防、重症化予防の入口として、薬局を活用しようという方向が見えるんだ。
新人おかっち 具体的には、どのような機能が想定されますか。
先輩K山 例えば、健康相談に応じて生活習慣の改善を提案したり、セルフメディケーションを支援したりする役割だね。相談内容によっては、医療機関への受診を勧めることもある。薬を渡すだけではなく、地域住民が自分の健康について相談できる身近な窓口としての役割が、これまで以上に重くなると考えられる。
新人おかっち 背景には、制度の変更もあるのでしょうか。
先輩K山 制度面の動きもある。改正医薬品医療機器等法では、届出制だった健康サポート薬局が「健康増進支援薬局」として法定化され、2027年5月から都道府県知事の認定を受ける制度となる。こうした制度改正と重ねて見ると、薬局に求められる役割が広がっていることが分かるね。
新人おかっち 最後に、骨太の方針の行方をどう見ておけばいいでしょうか。
先輩K山 骨太の方針は、制度改正そのものではなく、これから制度を動かすための出発点だ。ここに書かれた内容が、今後の国の議論を通じて、2027年度予算や具体的な制度に落とし込まれていく。今後の検討過程をしっかり追っていきたいね。
【参考情報】
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html
・内閣官房「日本成長戦略」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/pdf/jgs2026.pdf
・厚生労働省「第129回社会保障審議会医療部会 資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74887.html
・日本製薬工業協会「骨太の方針2026」閣議決定を受けて
https://www.jpma.or.jp/news_room/release/2026/260721.html























