CRA(臨床開発モニター)は、治験が適切に行われているかを確認する専門職です。新薬を世に出すためには、有効性と安全性を確かめる治験が欠かせません。その治験が法令やルールに沿って進んでいるかを確認するのがCRAの役割です。
この記事では、CRAの仕事内容、主な所属先である製薬企業とCRO、CRC(治験コーディネーター)との違いを解説します。あわせて、GCP省令におけるモニタリングの位置づけや、CRAに求められるスキルについても取り上げます。
※本記事は、2026年9月22日現在の情報をもとに記載しています。
CRA(臨床開発モニター)とは
CRAは「Clinical Research Associate」の略で、日本語では臨床開発モニターと呼ばれます。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)では、CRAについて次のように説明しています。
- 新薬の有効性や安全性を確認するための治験について、開始の準備や医療機関等との調整を行う。
- さらに実施中のモニタリング(治験が適正に行われることを確保するための調査)や報告書の作成も担う。
臨床開発モニター – 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令|e-Gov法令検索
CRAの仕事内容|治験の進行に沿った流れ
CRAの仕事内容は、治験の進行に沿って開始前・実施中・終了時の3つに分けられます。「job tag」が公表している仕事内容やタスクを、この3段階に当てはめて整理すると次のとおりです。
開始前には、治験実施計画書を読み込み、医療機関や治験責任医師、治験審査委員会を調査して選定します。治験実施中の業務は、計画に沿って進行しているかを確認するモニタリングや症例報告書の回収などが中心です。治験終了時には未使用の治験薬などを回収し、必須文書を確認します。
治験開始前の業務──医療機関の選定と契約
治験開始前のCRAは、治験を任せられる医療機関を探すところから始めます。まず標準業務手順書(SOP)を確認し、治験全体の進め方を把握します。
次に、治験を適正に実施できると思われる医療機関、治験責任医師、治験審査委員会(IRB)を調査したうえで選定します。この際、治験実施計画書(プロトコール)の原案を医療機関に持参し、実施の可能性について医師の意見を聞くこともあります。
実施可能と判断できれば、医療機関に治験参加を依頼して契約を結びます。契約後は、治験責任医師や看護師、薬剤師、治験薬管理者、CRCらを集めた合同会議を開き、手順を共有します。
治験実施中の業務──モニタリングと症例報告書の確認
治験が始まると、CRAの中心業務はモニタリングに移ります。用法・用量が守られているか、併用禁止薬が使われていないか、有害事象が起きていないかを確認していきます。
並行して、CRCや治験責任医師から症例報告書(CRF)を回収します。回収した内容はカルテなどの原データと照合し、欠落や矛盾がないかを確かめる必要があります。疑問点があれば、医師やCRCに直接確認します。
有害事象が起きた場合、安全性に関する情報は治験依頼者から各実施医療機関の長と治験責任医師に伝えられます。CRAはこの情報提供を担い、治験審査委員会への通知は実施医療機関の長が行います。
治験終了時の業務──治験薬の回収と必須文書の確認
治験が終わる段階では、標準業務手順書に従って未使用の治験薬などを回収します。必須文書に漏れがないかを確認し、所定の終了手続きを経て治験を終えます。
ひとつの治験の期間は数か月から数年とさまざまです。通常は開始から終了まで同じ担当者が受け持ちますが、業務量が落ち着く後期に新人へ引き継ぐケースもみられます。
CRAの外勤と内勤の割合
CRAの働き方は外勤と内勤に大きく分かれます。日本CRO協会は、企業によって異なるとしたうえで「週の半分は出張、残りは内勤という会社が多い」と説明しています。モニタリング報告書の作成や社内打ち合わせ、資料作成といったデスクワークも重要な仕事です。
ただし、この比率については異なる見方もあります。「job tag」は、医師など医療関係者との面談や合同会議がウェブ会議になる例が増えたと説明しています。
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CRAの主な所属先──製薬企業とCROの違い
CRAの主な所属先は、製薬企業とCRO(医薬品開発業務受託機関)のふたつです。「job tag」によれば、就業地域は製薬企業やCROの本拠地がある主要な大都市に限られます。雇用形態は正社員が中心で、少数ながら労働者派遣の形で働く例もあります。
CROは、GCP省令において法令上認められた治験の業務受託機関です。
製薬企業のCRA──自社が開発する薬の治験を担当
製薬企業のCRAは、自社が開発する薬の治験を担当します。日本CRO協会は、製薬業界の役割を薬を生み出し、製造して販売することと整理しています。開発から販売までを自社で手がける立場から治験に関わる形です。
採用面では新卒がほとんどを占めます。
CROのCRA──製薬企業から委託を受けて治験の進行を担当
CROのCRAは、製薬企業から委託を受けて治験を進めます。日本CRO協会は、CRO業界の役割を薬を安全に育てて世に送り出すことと説明しています。
CROでも新卒者を迎える機会は増えており、薬学系や医学系のほか、理工学系の出身者が採用されることもあります。
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CRAとCRC(治験コーディネーター)の違い
CRAとCRCの最大の違いは、製薬企業側と医療機関側、どちら側の立場に立つかという点です。CRAは製薬企業側から治験の進捗を管理し、CRCは医療機関側から医師や関係部局と連携して被験者を支援します。
| 比較項目 | CRA(臨床開発モニター) | CRC(治験コーディネーター) |
|---|---|---|
| 立場 | 製薬企業側 | 医療機関側 |
| 主な役割 | 治験の実施状況の進捗管理 | 医師や関係部局との連携・調整、被験者の支援 |
| 被験者との接触 | 基本的に直接会うことはない | 直接対応する |
CRCが所属する組織のひとつに、SMO(治験施設支援機関)があります。SMOは医療機関と契約を結び、治験の実施に係る業務の一部を受託する組織です。CROが製薬企業側のパートナーであるのに対し、SMOは医療機関側のパートナーという関係といえるでしょう。
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/530臨床開発モニター – 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)あわせて読みたい記事はこちらSMO(治験施設支援機関)とは:治験の質と効率を高める医療機関のパートナー|薬事日報
GCP省令におけるモニタリングの位置づけ
CRAの業務は、GCP省令という法令に基づいて行われます。GCP省令は「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」の通称で、1997年(平成9年)に制定されました(平成9年厚生省令第28号)。
制定時の根拠法は薬事法でしたが、薬事法は2014年に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)へ改称されました。現在のGCP省令は、薬機法に基づいて定められています。
モニタリングは治験依頼者の義務
モニタリングは、治験依頼者が果たすべき義務としてGCP省令に定められています。GCP省令は、被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上を図り、治験の科学的な質と成績の信頼性を確保するためのものです。
この義務があるからこそ、モニタリングは省略できません。GCP省令は、モニタリングに従事する者を「モニター」と定め、その責務を規定しています。
CRAは義務を実施する立場にある
CRAは、治験依頼者に課されたモニタリング義務を実際に担う立場です。「job tag」のタスク調査でも、基準や治験実施計画書に従って治験の実施状況をモニタリングすることが、CRAの業務として挙げられています。
CRAの専門性は、医学や薬学の知識だけでは説明できません。法令を正しく理解し、現場に適用する力が問われる職種だといえます。
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CRAになるには?未経験・中途からのキャリア形成も
CRAになるために必須とされる学歴や資格はありません。ただし業務遂行上、医学や薬学の知識が求められます。CRAになる人は、薬剤師や看護師、臨床検査技師などの医療系の資格を取得できる薬学系・医学系の卒業者が多い傾向にあります。
新卒からCRAになるには
新卒でCRAを目指す場合、主な入口は製薬企業とCROです。製薬企業では新卒採用がほとんどを占めます。CROでも新卒者が採用される機会は増えてきました。
出身分野は薬学系と医学系が中心ですが、CROでは理工学系が採用される例もあります。日本CRO協会も、薬学以外の出身者が数多く活躍していると述べています。
「job tag」では、この職業で働く人が多いと感じる学歴として、修士課程卒71.7%、大卒66.0%、博士課程卒24.5%が示されています。
未経験・中途からCRAになるには
CRAは、業界未経験からの転職も可能です。日本CRO協会は、会社によって異なるものの、未経験者を採用している企業は多いと説明しています。CROでは、業界未経験者を中途採用している企業もあります。
中途採用では、薬剤師、看護師、臨床検査技師といった医療系の分野で一定の臨床経験を積んだ後に採用されるのが一般的です。CRCからCRAへ転職する道もあります。
日本CRO協会によれば、医療業界の資格を活かしている人が多く活躍しています。大学で薬やバイオ系の研究をしていた経験がある人も目立ちます。また、新卒採用と中途採用いずれの場合も各社が研修制度を設けています。
CRAのキャリアパス
CRAとして経験を積んだ後のキャリアパスは複数あります。「job tag」では、企業によって異なるとしたうえで「就業後おおむね数年から7〜8年程度でチームリーダーとなり、後輩を指導・支援する立場になる」と目安を示しています。その後、開発企画や品質管理、安全性情報担当といった管理的部門へ異動することもあります。
臨床開発モニター – 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)
CRAに役立つ資格・語学力
CRAに必須の資格はありません。現状では、薬剤師の資格所有者や経験者が多く、次いでMR認定センターが実施するMR(医薬情報担当者)、看護師、臨床検査技師、保健師の資格所有者や経験者が多いとされています。
このほか、CRAを目指すときに役立つ認定資格もあります。
日本CRO協会のCRA認定制度
CRA認定制度に合格すると、CRA業務を行ううえで必要な知識を習得した者と認められます。認定者には2年ごとに更新試験が実施されます。
同協会によると、2009年の開始から2026年3月までの受験者は延べ10,089人、うち合格者は8,890人です。
臨床研究および臨床試験に関わるGCPをはじめとした法規制、ルール、倫理、医学的基礎知識などを有していれば未経験者でも受験できます。
認定制度の詳細|日本CRO協会認定制度の詳細|日本CRO協会
JSCTR認定GCPパスポート・GCPエキスパート
JSCTR認定GCPパスポートは、「job tag」が臨床開発モニター(CRA)の関連資格のひとつとして紹介している認定試験です。
GCPパスポートでは、GCPの基本理念と倫理、臨床試験方法論の基礎などを中心に出題されます。受験には、GCP(臨床試験・臨床研究)関連業務の経験が1年以上あることや、所属会社・所属機関での導入研修を修了している必要があります。
GCPエキスパートは、GCPパスポートの上位認定です。治験を含む臨床試験や臨床研究において、上級モニター、プロジェクトリーダー、監査担当者などの指導者的な立場で臨床試験を実施できる人材を認定します。
JSCTR認定GCPパスポート|日本臨床試験学会JSCTR認定GCPエキスパート|日本臨床試験学会
CRAに求められる英語力
現時点において、英語力は必須ではないものの、重要度は高まっています。日本CRO協会は、現在は「あればなお良い」というレベルだとしています。ただしCRO業界でもグローバル化が進んでおり、将来的には必須となる可能性が高いとも指摘されています。
「job tag」も同様の見方です。国際共同治験では、海外文献や薬の説明書を原文で読む場面があります。報告書を原語で作成したり、国際会議に出席したりすることもあり、語学力が必要な機会は増えています。
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CRAに求められるスキル・向いている人
CRAが仕事を進めるうえで求められるスキルとして、次のようなものが挙げられます。
- コミュニケーション能力
- 調整力
- 折衝力
このほか日本CRO協会は、求める人物像として「社会貢献への想いがある人」を挙げています。「job tag」では、責任感があり信頼を得られる人柄が求められるとしています。
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CRAの需要と今後の動向
CRAを取り巻く環境は過渡期にあります。日本CRO協会が会員28社の2025年(1〜12月)の業績を集計したところ、次のことが分かりました。
- CRAは前年より213人減って6,888人となり、7,000人を下回った
- 合計売上高は5.7%減の2,168億円で、2年連続の減少
- 一方、売上の半分以上を占めるモニタリング業務は4.0%増の1,208億円
協会関係者は、海外で行われる治験が日本で実施されないケースの増加などを背景に挙げています。
制度面でも大きな動きがあります。厚生労働省はGCP省令の一部改正案を公表しました。
改正案は、ICH-E6がR3として改訂されたことを踏まえ「治験の基本原則」11項目を新設します。「被験者」の呼称を「治験参加者」に改めることも盛り込まれました。もうひとつの柱が、分散型治験(DCT)の推進に向けた「治験支援薬局」です。治験参加者が自宅近隣の薬局で治験薬を受け取れるようにする制度で、2027年4月の施行が予定されています。
CRAの人数が減少した一方で、モニタリング業務の規模は維持されています。制度の見直しも重なるなか、CRAに求められる役割は今後も変化していくとみられます。
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