国立がん研究センター研究所 ビジョナリー戦略室国内戦略リード 鈴木 敦氏に聞く
ドラッグラグ・ロスの解消に向け、今年2月に本格始動した産官学連携プロジェクト「ENSEMBLExJ(アンサンブルクロスジェイ)」は、11月13日に都内でキックオフシンポジウムを開催する。国内の全ナショナルセンター(NC)が一堂に会し、癌領域で先行してきた支援を全疾患領域へ広げる節目と位置づける。各NCの臨床医が診療現場で必要とする医薬品や疾患領域を発信し、海外バイオテック企業、製薬企業、CRO、アカデミア、投資家との新たな連携につなげる。同プロジェクトのヘッドオフィスである国立がん研究センター研究所ビジョナリー戦略室国内戦略リードの鈴木敦氏に、開催の狙いや参加者に期待することなどを聞いた。
ラグ・ロス解消目指して
――アンサンブルクロスジェイの取り組みと現況を教えてほしい。
アンサンブルクロスジェイは、厚生労働省の「国際共同治験ワンストップ相談窓口事業」の一環として、日本に開発拠点を持たない海外バイオテック企業を支援する取り組みです。開発・薬事戦略に加え、国内パートナーの探索や事業化、資金調達戦略までを一体的に支援し、日本の患者に必要な医薬品を届けることを目指しています。
活動には二つの柱があります。一つは、海外企業から相談を受ける「Go to Japan」です。候補品を評価し、日本に必要な医薬品であれば、CROや製薬企業、治験実施施設などにつなぎ、開発から承認、患者への提供までを支援します。もう一つは、国内の臨床ニーズを起点に海外の開発品を探す「Treasure Hunt」です。治療アルゴリズムや病態を分析し、有望な標的や作用機序を持つ候補品を見つけ、こちらから日本での開発を働きかけます。待つだけではなく、必要な医薬品を取りに行く戦略です。
これまでに38件の相談を受け、4件が最終的なマッチング段階に入っています。厚労省が設定した年間15件という相談件数の目標を上回っており、手応えを感じています。中には、日本を含む国際共同治験の開始が期待される案件や、国内企業との連携により、治験、承認、販売までの道筋が見え始めた案件もあります。今回のシンポジウムを契機に、癌以外の企業や研究者にもコンソーシアムへ加わってもらい、全疾患領域で相談や臨床ニーズが継続的に集まる仕組みに発展させたいです。
各分野の専門性を結集
――全6NCが参加するキックオフシンポジウムの位置づけは。
今年2月に、まず癌領域でアンサンブルクロスジェイが正式に始動しました。今回のシンポジウムは、全NCが連携し、あらゆる疾患領域の相談を受け付ける体制へ移行することを対外的に示すキックオフの場です。ドラッグラグ・ロスは、癌や小児だけの問題ではありません。循環器、神経・精神、長寿医療、感染症、糖尿病などでも、海外に有望な治療選択肢がありながら日本で開発されていない、あるいは将来必要になる医薬品が国内にないという課題があります。各NCの専門性を結集し、全領域で必要な医薬品を日本の患者へ届ける体制を本格稼働させます。
――全NCが集まる意義は何か。
各NCには、それぞれの疾患領域で患者を診療し、アンメットメディカルニーズを把握している専門家がいます。一方、がん研究センターには医師に加え、製薬企業で開発やメディカル業務を経験し、企業やCROが動きやすい仕組みを設計できる人材がいます。癌領域で構築した支援の仕組みと、各NCが持つ臨床現場の知見を組み合わせることで、単独では難しかった医薬品の探索や海外企業との交渉、国内パートナーとの接続を進められます。
――プログラムの見どころは。
プログラムは2部構成です。第1部では、厚労省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)、同ワシントンD.C.事務所などが、ドラッグラグ・ロス対策における役割とアンサンブルクロスジェイとの連携を説明します。私からも、これまでの相談件数や案件の傾向、マッチングの進捗などを報告する予定です。全疾患領域で活動するに当たり、行政、規制当局、NCがどのように連携していくのかを示す場になります。
特に注目してもらいたいのは、第2部の「日本に必要な医薬品は?求める疾患は?」です。海外のバイオテック企業からは、「日本が何を求めているのか分からない」という声を聞きます。そこで、各NCの臨床医が日々の診療で感じている課題や、「このような患者に、このような医薬品が必要」という生の声を発信します。
市場規模や競合状況ではなく、患者を診ている医療者が本当に必要としている治療選択肢を示すことに意義があります。発表資料は英語でも作成し、海外向けに公開する予定です。
――シンポジウムを通じて、どのようなメッセージを伝えたいか。
臨床現場で本当に求められているものを、医薬品開発に関わる方々にしっかり受け止めてもらいたいです。
製薬企業では、患者数や市場性を基に開発戦略を組み立てることが多いと思いますが、現場には、事業性だけでは拾い切れない切実なニーズがあります。企業には、その声を開発戦略に反映し、真の意味での患者中心、患者第一とは何かを改めて考えてもらいたいです。
CROには、日本に持ち込むべき医薬品を私たちと一緒に探し、新たな事業機会につなげてもらいたいと考えています。
――特にどのような人に参加してほしいか。
製薬企業、CRO、アカデミア、医療機関に加え、ベンチャーキャピタル(VC)にも参加してもらいたいです。アンサンブルクロスジェイでは、候補品を科学的、臨床的な観点から厳しく評価し、日本の患者に必要か、開発の可能性があるかを見極めています。投資家には、私たちが評価した案件に臨床的な必要性と一定の開発可能性があることを知ってもらい、投資判断に生かしてほしいと思います。
アカデミアには、日々の診療で感じている「こういう医薬品があれば」という思いを、まず私たちに届けてもらいたいです。海外企業との交渉や、資金提供者、製薬企業、CROとの接続はアンサンブルクロスジェイが担います。臨床現場の漠然とした課題や要望を、具体的な開発案件として具現化していきます。シンポジウム終了後には、登壇者や関係者とのネットワーキング、コンソーシアムへの参加相談ができる場も設ける予定です。
本格稼働への起爆剤に
――参加を検討している人へのメッセージを。
癌領域では既にフル稼働に近い状態ですが、11月からは小児、循環器、神経・精神、長寿医療、感染症などへ活動を広げます。シンポジウムでは、各領域の臨床現場が何を求めているのかを直接聞き、参加者同士で新たな連携を作ってほしいです。製薬企業やCROには、患者に必要な医薬品を一緒に日本へ持ち込んでもらいたいです。アカデミアが抱える「もやもや」は、私たちが具現化します。今回のシンポジウムを、全領域での本格稼働に向けた起爆剤にしたいと考えています。
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