日本製薬工業協会会長 上野裕明

昨年は、国内外共に災害や紛争が相次ぎ、政局も大きく変動した一年でした。アメリカでは民主党のバイデン大統領が選挙から離脱し、共和党のトランプ氏が大統領再選を果たしました。ウクライナの戦乱に北朝鮮が兵士を派遣、イスラエル・ガザ地区で続く戦乱、シリアでの政権崩壊、韓国での政情不安等、世界情勢は予断を許さない状況にあります。
国内では昨年10月に石破政権が誕生しましたが、11月の衆議院選挙で与党が多くの議席を失い、政権基盤は不安定な状態が続いています。円安や物価上昇も止まる気配はなく、国民の多くが不安を抱えています。
また、能登で昨年1月に大地震、9月に水害が発生しました。極めて困難な事態の中、使命感を持って現地や後方病床で診療や調剤に当たられた医療関係の皆さまに感謝申し上げます。
一方、医薬品の出荷停止や限定出荷につきましては、業界を挙げて改善を進めたものの根絶には程遠い状況であり、深くお詫び致します。
そういった中、医薬品業界にとって明るい兆しも感じられました。2024年度薬価制度改革ではイノベーションを評価する方向に舵が切られ、ドラッグラグ・ロス対策をきっかけに、薬事制度でも実態に合った規制の見直しが進められました。また、夏には創薬エコシステムサミットが開催され、製薬業界は日本の成長産業・基幹産業と位置付けられ、官民協議会を設置して官民の協力で創薬力の強化が進められることとなりました。
そして今年は、日本において団塊の世代が全て後期高齢者となる超高齢化社会に突入する年となります。社会保障費の増大が予想される中、マイナカード認証のようなデジタル技術を駆使しての医療の効率化は避けられません。
これに対し、私たち医薬品企業は革新的医薬品の創出を通じて国民の健康寿命を延伸し、生産人口を増加させて日本経済を支えていきたいと思います。本年4月始動の政府の「第3期健康・医療戦略」に、創薬力の強化に向けた施策が記載される予定であり、補正予算でも創薬エコシステムの発展に向けた支援が盛り込まれます。
今年も国内外で多くの変化が予想され、課題は山積しておりますが、製薬協としてはイノベーション推進の流れを変えることなく、「必要な医薬品を患者さんにお届けする」という医薬品企業の使命を果たしていきます。