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高額薬問題、業界は患者と対話を

2025年06月13日 (金)

 治療薬が高額化している。患者の経済的不安を軽減して治療を継続できるようにすることは、製薬業界の課題でもあると考える。日本腫瘍臨床研究グループ(JCOG)の研究者グループが2021年から22年にかけて計17種類の癌の治療費について1万5564人を対象に行った調査では、月額は中央値で50万円以上、患者の17%は100万円以上だった。

 背景には、薬価が高い抗体薬や免疫チェックポイント阻害剤など革新的新薬の登場がある。生存率改善に貢献しているが、研究者グループは、「10~15年前に標準治療であった従来の化学療法と比較して、コストは10~50倍に増加した」と報告している。

 患者にとっては、治療費を払い続けられるのか不安が大きい。そのことは高額療養費制度の負担上限額の引き上げ論議で目の当たりにしたところだ。抗癌剤のほか、免疫疾患など難治性疾患の治療薬も高額化している印象がある。

 他方、製薬業界は、特に革新的新薬の薬価算定時の加算などのさらなる評価、特許期間中の薬価維持を求めている。主張の必要性は理解するところだが、生死や長期的QOLを左右する難治性疾患の治療薬を患者が使い続けられるようにする議論にも積極的に関与してほしい。

 高額療養費制度の見直しの検討が5月、今秋の取りまとめに向け厚生労働省により再開された。同制度は、高額治療費の患者負担を軽減する制度。この見直しは新薬の恩恵を患者に提供する機会を左右し、製薬企業の理念にも関わる。積極関与を求める理由だ。

 高額療養費は伸びている。その一因は高額薬剤にある。国民医療費の伸びの要因は、高齢化より新薬など医療の高度化等が上回る。高額療養費の伸びは、国民医療費全体の伸びの2倍(15年を100とした場合)。医療費に占める高額療養費の割合も増加傾向にある。

 厚労省は、このままでは保険料負担の増加につながるとして、保険料負担の軽減などを意図して負担上限額の引き上げを1月に提案。それに対し、治療費負担の重さから治療継続に危機感を持った患者団体からは凍結、関係学会からも治療への影響を懸念する声が上がり、再検討に至ったのは周知の通りである。

 治療で家計を壊さず、標準治療へのアクセスを担保するのは国民皆保険の根幹。その制度維持のため負担を患者に求め、治療の断念を懸念させるのでは皆保険の放棄だ。

 このように薬剤高額化と治療継続は、社会保障の給付と負担のあり方を問う国民的な課題である。その中で、革新的新薬を供給する製薬業界の役割もあるはずだ。

 日本製薬団体連合会、日本製薬工業協会は新体制となった。薬価制度改革について業界内、政官との議論に終始せず、高額薬の治療アクセスを含めて患者団体と共通理解を形成し、共同提案を行うことも一案ではないか。



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