エーザイと世界保健機構(WHO)は18日、リンパ系フィラリア症治療薬を無償提供する共同声明文に調印した。エーザイは2012~17年の6年間、途上国の約3億人分が供給不足に陥っているリンパ系フィラリア症治療薬「ジエチルカルバマジン(一般名:DEC)」約22億錠(約16億円相当)を製造し、WHOに無償提供する。日本の製薬企業が顧みられない熱帯病の制圧に向け、WHOと官民パートナーシップを確立したのは初めて。
リンパ系フィラリア症は、「アルベンダゾール」「アイバメクチン」「DEC」の駆虫剤3種類のうち、2種類の併用を年1回、最低5年間にわたって集団投与することで、制圧可能とされている。しかし、製薬企業から寄付を受けている「アルベンダゾール」「アイバメクチン」に対し、DECは世界的に供給不足の状態にあった。また、途上国で成分量や品質の低い製品が多く、リンパ系フィラリア症の制圧に大きな障害となっていた。
今回の共同声明によって、エーザイは、WHO基準の品質が保証されたDECについて、不足分と試算される約22億錠を、インドのバイザック工場で製造し、12~17年の6年間にわたって無償提供することで合意した。最終年となる17年には、プロジェクトを両者で評価し、その後もさらなる供給が必要かどうか決める予定。
18日の調印式後、都内で記者会見したエーザイの内藤晴夫社長は、「今回の協力関係は、顧みられない熱帯病から“顧みられない”の文字をなくすための実質的な進歩と位置づけられており、その克服に向けた大きな一歩になると確信している」と述べ、今後も医薬品アクセス問題に取り組んでいく方針を強調した。
その上で、「途上国の人々が病気を克服し、経済成長を遂げる基盤を作ることは、産業にとって重要。そうした長期的な考え方に伴い、現在貧しい人々の病気の撲滅に貢献するということは、企業の社会的貢献(CSR)を超えたビジネスの一環でもある」との考えも示した。
リンパ系フィラリア症は、蚊を媒介して感染する寄生虫症で、顧みられない熱帯病の一つ。感染すると、長期にわたるリンパ系機能障害を引き起こし、重篤な身体障害を発症する。途上国をはじめ世界81カ国で社会経済の発展を妨げているとされ、WHOは20年までの制圧に向けたグローバルプログラムを進めている。
既にエーザイは昨年、シャーガス病治療薬として有望な抗真菌剤「E1224」の臨床開発に関して、非営利団体のDNDi(顧みられない病気ための新薬開発イニシアチブ)と提携し、非営利のパートナーシップを実現している。現在、「E1224」の開発は南米で第II相試験準備中。