慶應義塾大学病院メモリーセンターの研究チームは、簡便な血液検査であるHigh Sensitivity Chemiluminescence Enzyme-immunoassay(HISCLR)を用いたアミロイドβ42/40比で、アミロイドPET検査の視覚読影よりも早期にアルツハイマー病(AD)の中心的病理である脳内アミロイドβ(Aβ)沈着を高精度に判別可能であることを示した。この血漿Aβ42/40は、前臨床(プレクリニカル)ADのスクリーニングに有用であると期待される。この研究成果は7日、国際医学雑誌Alzheimer`s Research & Therapy(オンライン版)に掲載された。
近年のAD疾患修飾薬の多くは治験対象を認知症の治療から、症状が出現する前の前臨床ADへとシフトし、二次予防への取り組みが注目されている。その際、前臨床ADをできるだけ早期かつ正確なスクリーニング法が求められている。
今回の研究では、日本人認知症コホートを対象に、血漿バイオマーカーによるADの診断および病期評価の有用性を検討した。評価したバイオマーカーは、Aβ42/40比、リン酸化タウ(p-tau181およびp-tau217)、グリア線維性酸性蛋白質(GFAP)、およびニューロフィラメント軽鎖(NfL)で、いずれも簡便な血液検査で測定できる。
被験者は、健常対照が69例、前臨床AD13例、AD-MCI38例、AD軽度(早期)認知症(AD-D)44例、非AD性認知症(CI)79例となっている。
ROC解析では、AβPET陽性(アルツハイマー病病理を有する)を予測するAUCは、Aβ42/40で0.937、p-tau217で0.926といずれも高精度だった。感度はp-tau217(0.905)、特異度はAβ42/40(0.947)が最も高く、有望な指標であることが分かった。
病期評価において、Aβ42/40は前臨床期から有意に異常値を示し、p-tau217は疾患の進行に応じて直線的に上昇していた。特に、Aβ42/40はカットオフ値0.096で二峰性の分布を示し、アミロイドPETの定量値19.3 centiloid(CL)の段階でAβ沈着を判別可能だった。これは、現在保険収載されているアミロイドPET視覚読影の閾値(32.9 CL)よりも早期の病理変化を捉えていることを示している。
現在、血液バイオマーカーのみでADの診断や抗アミロイド抗体治療の適応判断をすることはできない。今回の研究にから、血漿Aβ42/40およびp-tau217、特にその比率(p-tau217/Aβ42)は、AD診断におけるアミロイドPETの代替となる高精度な指標として有望なことが明らかになった。特に、HISCLRを用いたAβ42/40測定は、既存のPET検査視覚読影よりも早期にAβ蓄積を検出できると期待される。
抗アミロイド抗体治療は、現在「軽度認知障害」および「軽症AD」に限定されているが、その病態特性から認知機能障害の出現前、すなわち前臨床AD段階での先制的介入にもっとも効果を発揮すると期待されている。全自動免疫測定装置HISCLRを用いたAβ42/40測定は、簡便かつ多数の検体処理が可能で、来るべきAD先制医療(二次予防)における有用なスクリーニングマーカーとなり得る可能性がある。
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