大阪公立大学の大崎修司准教授らの研究グループは、堀場テクノサービスと連携し、ラマン分光法による薬物送達システム(DDS)の新規キャリアである金属有機構造体(MOF)、薬物への溶媒の影響を測定した結果、溶媒によってMOFの「分子の振動」に違いが生じることを確認、分子の振動が小さくなると、MOFが薬をより多く取り込める傾向があることを突き止めた。この成果は、MFO運搬体を実用化するための重要な一歩となることが期待されている。3月18日の国際学術誌「Langmuir」のオンライン速報版に掲載された。
近年、DDSの新規キャリアとしてMOFが注目されている。MOFは金属イオンと有機配位子からなるナノ多孔性錯体で、小さな孔が規則正しく並ぶ構造を活かし多量の薬物を取り込むことで、リポソームやミセルの薬物包接量に比べ、質量単位で2桁以上高い薬物包接能力が期待されている。
キャリアに包接された薬物の量は、DDS の開発において重要なパラメータの一つで、MOFの薬物包接手法の一つである、液相吸着による薬物包接手法では、MOFの薬物包接能に対してMOF?薬物?溶媒間の三つの相互作用が重要となる。これまでの報告例の多くは、溶媒の影響を考慮せず、水素結合やπ?π相互作用といったMOF-薬物間の相互作用や細孔と薬物のサイズ比などの影響は検討されていたが、溶媒の影響は明らかになっていない。
今回の研究では、この溶媒の影響を解明するため、種々の溶媒での薬物包接実験を行った。さらに、堀場テクノサービスと共に、ラマン分光法によるMOF?薬物?溶媒間の相互作用の測定を試みた。
その結果、液相吸着における溶媒が、MOF の薬物担持能力において重要な役割を果たしており、特に、数ある溶媒の特徴量の中で溶媒の双極子モーメントは、MOFの細孔への薬物担持のメカニズムに関連する重要な因子であることが分かった。
また、溶媒中でのラマンスペクトル測定により、溶媒の双極子モーメントの大きさに応じてラマンシフトが変化しており、溶媒の双極子モーメントは、MOF内の分子振動の抑制に大きく影響を与えることを見出した。これらの結果は、液相吸着におけるMOFへの薬物包接メカニズムの一端を示していると考えられた。
今回の成果は、ある薬物をMOFに包接したい場合に、液相包接時の適切な溶媒を選定するための指針につながると考えられる。研究グループは今後、MOF?薬物?溶媒間の三つの相互作用とMOFの薬物包接との関係を、分子シミュレーションを用いてより詳細に検討することを目指していく。
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