業務と研究を両立
沢田佳祐さんは大阪府枚方市にある枚方公済病院(313床)で働く薬剤師だ。大学卒業後、大学病院での勤務を経て、2017年に同院に就職。入職2年目から感染対策室に所属し、抗菌薬適正使用支援チーム(AST)専任者に指名された。現在は救急外来における薬物療法支援と、AST活動支援を中心に業務を行う。大学院生として研究にも打ち込み、26年度には病院の推薦を受けて海外に留学する予定だ。沢田さんは「多くの医療者がより良い医療を届けられるよう、エビデンスを発信したい」と思いを語る。
昨年12月のある日。沢田さんの仕事は、8時半の薬剤科朝礼から始まった。薬剤師間でスケジュールを確認し、医薬品の欠品・入荷状況や特別な対応が必要な患者などの情報共有を行った。
その後、医局の朝礼にも出席。医師のスケジュール確認のほか、当直医からの時間外入院の引き継ぎや、高度治療室(HCU)入室患者の情報共有が行われる中、沢田さんは情報収集に努めた。「直接医師から話を聞きたい。連携も深まると考え、志願し参加させてもらっている」と語る。
9時からは救急外来業務にあたった。限られた時間の中で医師が多くの外来患者に対応できるように、迅速で的確な医薬品情報の収集や提供に取り組んだ。過去に担癌患者が新型コロナウイルス感染症を発症した症例では、添付文書で併用注意となっていた抗ウイルス薬と服用薬の相互作用の詳細な情報を海外文献から探し出し、医師へ提示。影響は許容範囲内であるとして投与が決まった。「文献を探して適切なデータを読む点は私の最も得意とするところ。医師はその間に他の患者を診察できる」と沢田さんは話す。
10時になると移動し、抗がん剤の調製を実施した。「薬剤師としての基本かつ重要なセントラル業務の手技や感覚を鈍らせないため、シフトに組み込んでもらっている」という。
11時から、午後に行われるASTカンファレンスの準備に取り掛かった。抗菌薬の使用動向や検体の培養検査結果などを確認。24年にAST専任者を後輩薬剤師に引き継いでおり、その後輩が作成した資料にも目を通した。
1時間の休憩を挟み、13時から再び救急外来業務。14時からASTカンファレンスに出席した。医師、看護師、臨床検査技師など多職種が集まり、薬剤師が作成した資料をもとに、検査値や体温、薬剤の種類や投与量などを確認しながら、合計15~20症例ほどの抗菌薬治療を振り返った。沢田さんは「血液培養検査は敗血症などの重い疾患につながる可能性があるため、特に重視する」と話す。投与量の適正化や抗菌薬の変更など、今後の治療方針を議論し、終了後に決定した治療方針や議論の内容を、各患者の主治医や病棟薬剤師へ報告した。
16時半からは後輩教育にあたった。人材育成も重要な役割。後輩が作成した資料や論文などをチェックし、フィードバックを行った。
17時から調剤室の締め業務を行い、1日の業務を終えた。業務終了後は臨床研究や論文執筆などの自己研鑽・研究活動に取り組んだ。
今でこそ研究熱心な沢田さんだが、学生時代は薬剤師への強い熱意はなかったという。
高校時代は数学が苦手で、選択肢が限られる中、たまたま見つけたのが薬学部で、10年に立命館大学薬学部へ入学。教授の薦めで16年4月に京都大学病院に入職するも明確なキャリアビジョンを持たず、焦りを感じていた。
転機はすぐに訪れた。17年4月、当時の枚方公済病院の薬剤科長との縁で同院に転職。「柔軟な風土で、多くの挑戦の機会をいただいた」と振り返る。
挑戦の一つが、入職2年目で指名されたAST専任者としての業務だ。ASTの立ち上げに始まり、当初はASTに感染症専門医が加わっていなかったため薬剤師主導で抗菌薬適正使用支援を実施するなど活動を牽引。ASTの介入により、入院や治療期間の短縮、抗菌薬治療費の削減につながったエビデンスをまとめて論文化した。

薬剤科では「安心かつ安全な医療の提供」を掲げ、調剤から病棟業務、チーム医療まで幅広く活動している
沢田さんは「患者個人への介入から、病院全体のシステムや医師の処方行動への介入へと視座が変化し、仕事の質が劇的に変わった」と話す。
感染症は未経験の分野だったため、多くの勉強会へ参加。20年の新型コロナウイルス感染症の流行時は、「未知のウイルスに対抗するには論文を読むしかない」と考え、論文を読み漁った。
21年には自施設におけるワクチン接種後の副反応発現率などをまとめた、自身初の筆頭論文を作成。この経験から、「現場の感覚だけでなく、自らの手でデータを分析し、エビデンスを発信できる薬剤師になりたい」と考え、22年4月に京都薬科大学大学院博士課程に入学。村木優一教授から指導を受け、5本の英語論文を執筆した。
病院で勤務しながら大学院で研究を行うハードな日々を送るが、仕事のやりがいは大きく、充足感は強い。今は医師や薬剤師から「あの治療がうまくいって、患者さんに喜んでもらえたよ」と報告を受けることが特に嬉しい。
薬学生に向けて「大学入試や最初の就職活動が人生のすべてを決めるわけではない」と沢田さん。「方向修正や再チャレンジはいつでもできる。その時々の気づきや出会いを大切にして欲しい」とエールを送る。





















