富士通と大阪大学量子情報・量子生命研究センターはこのほど、Early-FTQC時代の量子コンピュータの産業応用を加速する新たな技術を開発した。独自の高効率位相回転ゲート式量子計算アーキテクチャ「STARアーキテクチャ」の位相回転の精度を向上させた「STARアーキテクチャ」ver.3と、計算対象の分子モデルを最適化する新技術を組み合わせることで、計算リソースを大幅に削減した。これにより、現行コンピュータでは計算できない触媒分子といった化学材料のエネルギーをEarly-FTQC時代の量子コンピュータを用いて現実的な時間で計算できる見込みが得られた。この技術の活用により、医薬品開発の加速、カーボンリサイクル技術の進展など、様々な社会課題の解決に貢献することが期待される。
今回の研究では、▽「STARアーキテクチャ」ver. 3の開発▽分子モデル最適化技術――の二つを組み合わせることで、実用に十分な精度と時間で化学材料のエネルギー計算を実現できることを示した。
「STARアーキテクチャ」ver. 1とver. 2は独自の位相回転ゲートを導入することにより、論理Tゲートを繰り返す従来のFTQCアーキテクチャよりも少ない量子ビットと計算時間での実行可能性を示した。これまで、位相回転ゲートのエラー訂正をしない代わりに計算精度を高く保つ改善を重ねてきたが、より複雑な分子計算にはさらなる計算規模の拡大が不可欠だった。
今回の「STARアーキテクチャ」ver.3では、位相回転ゲートと論理Tゲートを融合させることで計算精度をさらに10倍以上向上させたことにより、同じ量子ビット数での計算規模を拡大させた。これにより、従来は困難だった規模の計算が可能になると共に、量子ビットに要請するエラー率を緩和できる。
分子モデル最適化技術は、「STARアーキテクチャ」ver.3を実装した量子コンピュータを用いることを前提とし、そこで実行する量子回路を分子モデルから生成する際に用いるもの。
既存技術では、分子モデルを多数の項に分割し、性質の異なる時間発展法とランダムサンプリング法という二つの手法を各項の重要度に応じて使い分けることで計算リソースを削減できることが知られている。これに対し、近似精度を維持したまま分子モデルを変形して重要度の分布を変え、二つの手法のバランスを最適化する手法を考案した。これにより、分子のエネルギー計算のための量子回路に含まれるゲート数を最小化し、計算時間を既存手法より大幅に削減された。
これらの技術の効果検証として、創薬分野で重要な酸化酵素とされるタンパク質のシトクロムP450、アンモニア合成やエネルギー代謝に関与する触媒蛋白質の鉄-硫黄クラスター、合成化学分野で注目されているルテニウム触媒、という三つの分子を対象に、産業応用可能な精度でのエネルギー計算に必要な量子ビット数と計算時間を検証した。
これらの分子の正確なエネルギー計算は、現行の古典コンピュータではメモリ不足のために実現不可能であり、「STARアーキテクチャ」ver.2でも数千年かかるうえ、高精度計算も困難な計算規模となる。
今回の検証の結果では、主に「STARアーキテクチャ」ver.3の効果により、量子ビット数を従来FTQCアーキテクチャと比較して15分の1から80分の1程度に低減した。また、量子ビットに要請する物理エラー率をこれまでの0.01%から0.10%に緩和してもEarly-FTQC時代の量子コンピュータで計算可能であることを確認した。
また、計算時間は、分子モデル最適化技術によって、この技術を用いない場合と比較して3桁短縮し、量子ビットのエラー率が0.10%で35日前後、0.01%で10日前後と大幅に短縮できることを確認した。将来的に期待される量子コンピュータの物理エラー率の低減と、複数台の量子コンピュータを用いた並列計算の実行により、計算時間をさらに短縮することも可能で、十分実用に耐えうる計算時間を実現できると考えられた。
今後も両者は、「STARアーキテクチャ」および分子モデル最適化技術をさらに発展させ、Early-FTQC時代における量子コンピュータの実用的な応用範囲を拡大していく。そして、創薬、新素材開発、金融など、様々な産業分野への応用を目指し、社会課題の解決に取り組んでいく。
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