米食品医薬品局(FDA)は9月26日、成人用の統合失調症治療薬「Cobenfy」(一般名xanomeline/trospium chloride)を承認した。長年にわたって統合失調症の標準治療薬として用いられてきたドーパミン受容体を標的とする薬剤ではなく、コリン作動性受容体を標的とする薬剤が承認されたのは、今回が初めてである。
Cobenfyは、患者たちが長年望んできたものをもたらす可能性がある。それは、現在のドーパミン受容体を標的にした薬による体重増加や倦怠感といった副作用なしに、患者たちの生活を乱す幻覚や幻聴を軽減する効果だ。
FDA医薬品評価研究センター(CDER)のTiffany Farchione氏は、「統合失調症は世界的に障害の主な原因となっている。重篤で慢性的な精神疾患であり、しばしば患者の生活の質(QOL)を損なうものだ。Cobenfyは、統合失調症治療における数十年ぶりの新しいアプローチである。今回の承認により、統合失調症患者に、これまで処方されていた抗精神病薬に代わる新たな選択肢がもたらされた」と、FDAのリリースで述べた。
FDAによると、脅迫観念、幻覚幻聴、被害妄想などの症状が特徴の統合失調症は、米国人の約1%が罹患しているとされ、日常生活や他者との社会的な交流に大きな支障をきたす可能性があるという。
既存の統合失調症薬のほぼ全ては、脳細胞のドーパミン受容体を遮断することで症状をコントロールするが、薬の服用者は何十年にもわたって、体重増加、意欲の欠如、無気力などの副作用に苦しめられ、服用をやめてしまうことはよくあることだ。
成人用の統合失調症治療薬としてのCobenfyの有効性は、DSM-5の基準に従って統合失調症と診断された成人を対象とした5週間の多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(EMERGENT-2試験、EMERGENT-3試験)により評価された。
主要評価項目は、5週目の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計スコアのベースライン時からの変化量だった。PANSSは、統合失調症の症状を測定する30項目の評価尺度で、各項目は、臨床医によって7段階の尺度で評価された。その結果、Cobenfy群ではプラセボ群と比べて5週目のPANSS合計スコアが、EMERGENT-2試験では9.6点、EMERGENT-3試験では8.4点有意に低下したことが示された。
Cobenfyの主な副作用としては、吐き気、消化不良、便秘、嘔吐、高血圧、腹痛、下痢、頻脈(心拍数の増加)、めまい、胃食道逆流症が起こる可能性がある。また、肝臓障害のリスクがあるため、肝機能障害がある患者の使用は推奨されない。
Cobenfyを製造販売するBristol Myers Squibb社は、同社のプレスリリースで、「統合失調症の治療に使われる他の抗精神病薬とは異なり、Cobenfyは非定型抗精神病薬に見られるような警告や注意事項がなく、枠囲み警告も付いていない」と述べている。とはいえ、2つの臨床試験は5週間しか行われていないため、長期的な有効性と安全性については依然として不明である。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、Bristol Myers Squibb社は、Cobenfyを1年間服用した対象者について個別のケーススタディを実施したとコメントしており、それによると、代謝変化や運動障害の兆候は見られなかったという。同社は、これらの結果を2024年の後半に公表する予定とのことだ。
Cobenfyは安価ではない。Bristol Myers Squibb社によると同薬の費用は月額約1,850ドル(1ドル146円換算で約27万円)、年間約2万2,500ドル(1ドル146円換算で約320万円)になるとニューヨーク・タイムズ紙は報じた。(HealthDay News 2024年9月27日)
Source
https://www.healthday.com/health-news/mental-health/fda-approves-new-kind-of-drug-for-schizophrenia
https://www.nytimes.com/2024/09/26/health/fda-schizophrenia-drug.html