【これから『薬』の話をしよう】減薬介入の効果が限定的である理由 医療法人徳仁会中野病院薬局 青島周一

2026年01月20日 (火)
青島周一氏

 2025年7月に、日本老年医学会が発刊している「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が10年ぶりに改訂されました。現在では、ポリファーマシーや潜在的不適切処方といった概念が、国内でも広く普及したように思います。一方で、不適切処方の減薬や投与の中止を促す介入(以下、減薬介入)を行っても、転倒や骨折、再入院、死亡など、臨床的に重要なアウトカムの発生リスクは大きく低下しないことが知られています(PMID: 34221792)。筆者は、減薬介入の効果が限定的な理由として、ポリファーマシーが生み出される要因や減薬介入のアプローチが、極めて複雑性の高い事象であることに着目しています。

 一般的に、集団における体重や身長、あるいはテストの点数などのデータは、平均値に近い人が最も多く存在し、平均値から乖離するにつれて、徐々に少なくなっていく釣り鐘型の確率分布を描きます。このような確率分布は正規分布と呼ばれ、集団における薬の平均的な効果量もまた、正規分布を前提としています。

 一方で、生活習慣の是正や運動療法の推奨など、患者個別の文脈を考慮した医学的介入は、薬を投与するといった医学的介入よりも、そのアプローチが複雑です。減薬介入もまた、医療者要因、患者要因、医療制度など、多面的な文脈を考慮して実施せねばなりません。ポリファーマシーと呼ばれるような全ての状況に対して、画一的な介入を行うことができないことは想像しやすいと思います。少なくとも、処方薬や患者の病態に応じた個別の減薬アプローチが不可欠です。

 多数の要素が相互に影響し合い、個々の要素の単純な総和では予測できないシステムを複雑系と呼びます。複雑系はまた、その発生頻度がべき乗則(べき分布)に近似できると考えられています。べき乗則とは、一部の要素が非常に大きな値を持つ一方、大多数の要素はごく小さな値に留まる不均衡な確率分布のことです。

 大規模な自然災害や株式市場の暴落など、多数の要因が複雑に影響し合って発生する事象は、その頻度が極めて稀な一方で、ひとたび発生すると、甚大な社会影響をもたらします。つまり、複雑系がもたらす社会的な影響は正規分布では表現しにくいのです。

 社会的な要素を含む複雑な医学的介入もまた、効果量のばらつきが大きく、べき乗則に近い分布を認めるとの報告(PMID: 22479569)があり、減薬介入にも類推的に当てはまる可能性を指摘できそうです。つまり、少数の症例で大きな効果が得られる一方、多くの症例においては効果が限定的である可能性です。減薬介入を実施しても、臨床的なアウトカムが平均レベルで低下しにくい理由は、効果量の不均衡な確率分布に起因しているのかもしれません。

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