2010年4月、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」制度が、試行的とはいえ実施されることとなった。わが国の薬価制度は、特許期間中の新薬であっても、薬価調査のたびに恒常的に薬価が下がるため、膨大な経費がかかる新薬の研究開発費が、早期に回収されない仕組みとなっている。
このことは、わが国の医薬品市場の魅力度が低いことを意味し、外資のみならず、内資企業においても、わが国での新薬の開発・上市の意欲を削ぐことにつながり、いわゆるドラッグラグが生じる要因の一つともなっている。
今回の加算制度は、一定条件の下ではあるが、薬価が維持される画期的な仕組みと言える。しかしながら、この試行に伴い、一部の医療現場から加算制度を根拠に、メーカーも卸も薬価の値上げを主張しているとの声があり、製薬協流通適正化委員会として、この加算制度の理解促進活動、情報提供活動を自粛するに至ったことは誠に遺憾なことであった。
公定価格が下がらないのだから、価格交渉もそれを前提にして始まることは、制度の趣旨からも当然のことであるが、誤解を招くことがあったとすれば、残念なことである。いずれにしろ、制度の趣旨が理解され、恒久実施につなげていく必要がある。
6月には「新成長戦略」が閣議決定された。この新成長戦略の中では、「ライフイノベーションによる健康大国戦略」として、医療・介護等の分野が、わが国の成長を担っていくことが示されている。
製薬協としても、4月末に新成長戦略に向けての提言をまとめ、厚生労働省、経済産業省、文部科学省に提出したところである。製薬産業は知識集約型産業として、資源の乏しいわが国にふさわしい産業であり、世界第3位の新薬創出国でもある。グローバルに展開をして、わが国の成長に貢献していくために、研究開発、承認審査、薬価制度、税制等各般にわたって、インフラ整備が必要であることを指摘している。
新成長戦略が産官学連携のもと、着実に推進されることが大事である。これに関連し、内閣に「国内投資促進円卓会議」「医療イノベーション会議」など、関係省庁と産業界が協議をしていく場が作られ、製薬協からも長谷川会長が様々な提言を行っている。民主党政権になってから、一度も「官民対話」が開かれていないが、これも早急に再開し、陳情型ではない、実効性のある政策協議が行われることが望まれる。
未承認薬、適応外薬解消に向けた動きも、大いに進展した。政府の有識者会議が検討の上、各企業に開発要請等があったものは(この原稿執筆時で)180件余りに上るが、該当各社とも真摯に対応し、昨年、製薬協会員会社全社が加盟して設立した「未承認薬等開発支援センター」と協力し、解決していく努力をしているところである。
来年4月には、製薬協の呼びかけのもと、「第1回アジア連携会議」が東京で開催される。今後ますます重要性を増すであろう中国、韓国、インドなどアジア主要諸国の民間製薬団体と、問題点の共有、課題解決への協力等を話し合う初めての試みである。
一方、企業活動と医療機関等との情報の透明性を確保することは、世界的な潮流となっている。特にアメリカでは、医療保険法の改革の中に規定(サンシャイン条項)が置かれ、13年度から公開が始まることとなっている。製薬協としても検討チームを発足させ、10年度中に結論を出し、13年度から実施することを目標に、検討を進めているところである。
また、企業倫理やプロモーション活動において、会員会社で問題が起きたことを受け、さらに、経団連が企業行動憲章の改定を行ったことも踏まえ、製薬協としても「製薬協企業行動憲章」および「製薬協コンプライアンス・ガイドライン」の改定作業を行ってきたが、これも来年4月に実施する予定としている。