顧みられない病気の新薬開発を進める非営利団体「DNDi(Drugs for Neglected Diseases Initiative)」では、最も忘れ去られた病気と言われるアフリカトリパノソーマ症(眠り病)、シャーガス病、リーシュマニア病に焦点を当て、2014年までに6~8種類の治療薬を提供するため、取り組みを加速させている。代表を務めるベルナード・ペクール事務局長は、本紙インタビューに応じ、「日本は政府のイニシアチブ、製薬企業の豊富な専門知識の両方を持ち、非常に可能性が高い」と期待感を示し、「金銭的なメリットはないが、世界的な評価が得られるという意味でも、ぜひ顧みられない病気の共同開発に一層の協力をお願いしたい」と訴えた。
DNDiは、07年3月に仏サノフィ・アベンティスと共同開発を進めたマラリア治療薬の合剤「ASAQ」を発売。08年4月には、ブラジルでマラリア治療薬の多剤混合剤「ASMQ」の承認を取得し、相次いで成功例を生み出した。
今年5月には、眠り病の新たな治療選択肢として、ニフルチモックスとエフロルニチンの併用療法(NECT)がWHOの必須医薬品リストに追加され、眠り病の患者に使えるようになった。既に、独バイエルがニフルチモックス、サノフィ・アベンティスがエフロルニチンをWHOに寄付することが決まっている。
ペクール氏は「これまで眠り病には、メラルソプロールという薬剤が第一選択として使われてきたが、非常に毒性が強かった。それをNECTで代替できるようになったことが重要だ」と意義を強調している。
同じく5月には、DNDiが創薬段階から関わった初の化合物で、眠り病が進行した第二期に有効なフェキシニダゾールについて、サノフィ・アベンティスと開発、製造、販売に関する協力協定を締結した。09年内には第I相試験をスタートできる見通しで、眠り病の治療法開発は一気に進み始めている。
一方、探索研究に関しては、韓国パスツール研究所と契約を締結し、リーシュマニア病の化合物スクリーニング施設を立ち上げた。世界的にリーシュマニア病患者が多いインドでは、中央医薬品研究所(CDRI)と共同でリード化合物の最適化を進めているところだ。
ペクール氏は「日本の製薬企業と知的財産保護や秘密保持に関する契約を締結した上で、化合物ライブラリーをスクリーニングさせていただき、有望な化合物があった場合には、一緒に共同開発を手伝ってほしい。金銭的なメリットはほとんどないが、国内外からの評価や社員の意識向上など、製薬企業として得るものは大きい」と協力に理解を求めた。
未だ低い認知度‐日本の役割大きく
昨年の北海道洞爺湖サミットでは、G8首脳宣言で顧みられない熱帯病の支援で合意したことが盛り込まれるなど、国際的な政府レベルでの関心は高まっている。ペクール氏は「シャーガス病、リーシュマニア病については、決して対策は十分とは言えないし、国際政治の中で大きな話題とはなっていない」と指摘。「まず、こうした(眠り病やシャーガス病などの)病気が存在し、われわれのような非営利組織が新薬開発を進め、解決策を試みていることを知ってもらうことが大切だ」と強く主張する。
その上で、ペクール氏は、日本の北里研究所で発見されたイベルメクチンが、米メルクからの無償提供を受け、広くアフリカでオンコセルカ症の特効薬として使用されてきたことを挙げ、「日本発の医薬品がアフリカの顧みられない病気に大きく貢献し、多大な恩恵をもたらした実例がある」と強調し、「顧みられない病気の新薬開発について、日本に一層の協力をお願いしたい」と訴えている。
特にペクール氏は、1997年のデンバーサミットで、故橋本龍太郎元首相が寄生虫症の国際的対策の重要性を訴えた「橋本イニシアティブ」、00年の九州・沖縄サミットで発表された「沖縄感染症対策イニシアティブ」など、日本政府の積極的な取り組みを高く評価。「今後も継続して具体的な対策を進めていただくようお願いしたい」と要請した。同時に、製薬企業や大学、研究機関とのパートナーシップの重要性を強調。「政府の支援、産学協力の両方があってこそ、顧みられない病気の新薬開発を促進できる。その意味で、非常に高い可能性がある日本に大きな期待を持っている」と期待感を示した。