間近に迫った参議院議員選挙で社会保険料の引き下げが争点の一つになっている。インフレが続き、物価高が国民生活を直撃している現状から、可処分所得を増やす政策として社会保険料の引き下げが焦点に浮上してきた。
特に、日本維新の会は社会保険料の引き下げを強調しており、公約に掲げた医療・介護関連政策では、国民医療費の総額を年4兆円以上、現役世代1人当たりの社会保険料を年6万円以上引き下げるため、OTC類似薬の保険適用除外をはじめ限られた財源を重症患者や高額・革新的な医療治療に重点的に振り向ける制度改革を進めると主張。診療報酬体系の再構築にも言及している。
また、国民民主党も「手取りを増やす」として、現役世代の社会保険料軽減を打ち出したほか、公的医療保険の給付範囲見直しも掲げている。
今通常国会でも、OTC類似薬の保険適用除外が議論になったが、可処分所得を増やすという文脈の中ではあるものの、選挙戦でこれだけ社会保険料の引き下げが争点になることはかつてなかったのではないだろうか。
高齢化が進む中で社会保障制度改革は必至の状況にあるが、誰もが痛まない改革は不可能である。社会保険料を引き下げた場合に社会保障制度の枠組みはどうなるのか、国民の負担と給付の水準はどうなるのか、全体像を示したような政策案が各党から示されているとは言えない。
選挙戦では痛みを伴う制度改革論は封印されがちだ。選挙後は不安定な政局も予想される中だが、一過性の政策ではなく、与野党でしっかりと将来を見据えた社会保障制度改革論議を進めてほしい。
その議論の中で、薬局の収入である調剤報酬も無風ではいられない。早くも次期調剤報酬改定に向けて厚生労働省の担当者からは「厳しい」との認識が示されている。過剰な薬局数が焦点になりつつあり、厚労省は全国の薬局数と薬局薬剤師数が都市部に集中している偏在の実態を中央社会保険医療協議会総会に示し、次期改定への問題提起を行った。
ここまで物価高を背景にした国民の負担感が高まってくると、当然、医療費の負担に対しても国民の目はシビアになってくるだろう。現在の調剤報酬の仕組みは複雑であり、必ずしも国民からの支持が得られているようには見えない。また、薬剤師の役割に対しても未だ理解が十分に深まってはいない。こうした状況下では、薬剤師の仕事に対する視線もますます厳しくなるはずだ。
今後は国民からの理解がなければ調剤報酬も薬剤師の仕事も守れない時代になってくるだろう。政治の場でOTC類似薬がターゲットになったが、その矢が薬局に向かう可能性も否定できない。そうなる前に薬剤師が必要だと国民を説得できる材料をまとめ、アピールしていく取り組みを今から進めておきたい。