参議院議員選挙は与党大敗、野党の多党化と、内政の混乱を予想させる結果となった。そもそもパンドラの箱を開けたような選挙戦だった。一部の事実に大げさ、まぎらわしさ、虚偽をまとって不安を煽る主張が否応なく耳に入ってきた。国債利回りが過去最高となった市場のアラートそっちのけで減税を求める主張が連呼され、さらなる財政出動を求める声もあった。
排外、差別は論外だが、覆った空気感は国民の心の底にある不安や不満であり、抗議の声だったのではないか。
その声とは何か。公正な社会を希求する声だ。ありていに言えば、労に報い、不安に応えてほしいという声だ。
企業が成長する一方、給与増の実感は低く、税・保険料負担も重い。負担に見合った年金、医療、福祉、介護などの社会保障を受けられるという実感が乏しい。
政府統計を見る限り、成長の成果が必要なところに届かず、分配の公正さを欠いているように見える。
消費税8%引き上げ前の2013年から見ると、実質GDPの伸びは増税時を除きほぼ1%内外で推移する。一方で、法人企業統計では企業の当期純利益は倍増、利益剰余金も倍近い。
他方、労働者の所定内賃金は、最近の賃上げ前までは伸び率は1%未満。近年の賃上げ後も物価上昇に追い付かず実質マイナスが続く。
国税の税収を見ると、法人税収は13年度から23年度まで約5兆円増だが、消費税収は倍以上の約12兆円増。大和総研のレポートによると所得下位グループの家計の税・社会保険料負担率は、中位グループと差がほとんどなくなった。背景に所得税の累進性緩和と逆進性を持つ間接税の比率の高まりがあるという。収入に占める社会保険料負担は25.9%(2人以上世帯)。消費性向は低下傾向だ。
社会保障給付費は今後も増える。しかし「100年安心」の年金制度は揺らぎ、不満を残したまま年金改革法が成立。生活保護は、最後の安全網と言われる割には申請、認定、減額をめぐる訴訟がたびたび起きる。高額療養費制度の見直しでは患者の家計を破綻に追い込みかねなかった。
将来を含め不安、不満が募る。その解消は政治の役割であり、社会保障制度の役割が大きい。所得格差の縮小が経済を強くするとのOECDの指摘もある。
他方、不安・不満を募らせ、公正さを求める余り、行き過ぎた自国民優先のポピュリズムには警戒しなければならない。欧米に続き日本もそんな時代を迎えている。
パンドラの箱に残ったのは希望と言われる。諸統計を見る限り、国民の負担は増えざるを得ないが、それが希望を生む政治と制度の信頼と安心を取り戻すことが必要だ。まずは内政の混乱を避け、成長の成果を分かち合う国づくりと社会保障への信頼を再生するセーフティーネット(安全網)の強化が先決だ。