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災害薬事人材の法的位置づけを

2025年11月21日 (金)

 日本は有数の災害大国で、地震、豪雨、台風が発生するたびに食料や水の備蓄確保が叫ばれている。一方で、医薬品については、防災の根幹をなす災害対策基本法で医薬品の供給を義務づけながらも、その調整機能や専門人材の配置については一言も触れていない。

 かつて東日本大震災や熊本地震では、持病の薬を失った高齢者や慢性疾患の患者が健康を悪化させる事例もあったようだ。医薬品は命をつなぐライフラインであり、途絶することは深刻な二次被害を引き起こす。しかし、現行法では「医薬品を供給する」という抽象的な義務を定めてはいるものの、どのように供給を調整するか、誰が責任を負うのかについて明記していないのが現状である。

 こうした課題に対応するため厚生労働省は2025年度、「災害薬事コーディネーター」の活動要領を示し、都道府県に配置を要請している。24年度末(3月31日付)時点で29都道府県において1052人の災害薬事コーディネーターが任命され、今年度も任命が進んでいる。

 災害薬事コーディネーターは、被災地における医薬品供給管理や薬剤師派遣調整を担う「司令塔的役割」を果たす存在だ。能登半島地震では、全国から薬剤師が支援に入り、モバイルファーマシー等を活用して現地薬局の復旧までのつなぎを担った。こうした活動を体系化し、平時から研修・人材育成を進めることが急務である。

 厚労省は29年度までに全都道府県での配置を目標としている。それに向け、各都道府県に養成を支援していく形で予算措置も講じているが、現場で即応できる体制を整えるためには、さらなる加速が必要だ。

 課題は人材だけではない。地域防災計画における慢性疾患への配慮は乏しく、外傷薬や応急処置薬の備蓄は進む一方で、糖尿病や高血圧などの常備薬は後回しにされがちだ。薬局や卸業者との連携も自治体ごとの協定任せで、法的裏付けがないため地域差も少なくない。災害時に必要な情報共有となる電子カルテや服薬情報の連携も個人情報保護の壁に阻まれ、特例規定の整備も遅れている。

 海外では、米国や欧州で災害時の医薬品供給を法令で担保する仕組みが整備されているようだ。日本では「通知と努力義務」にとどまり、実効性に欠けるのではないか。災害は待ってくれない。次の危機に備え、特に災害薬事コーディネーターの法的位置づけ、医薬品供給網の強化、情報連携の特例規定などを包括する法制度の抜本的見直しが急がれる。

 医薬品は命を守る砦でもある。製薬企業、医薬品卸、薬局薬剤師は、備蓄・物流・情報の三位一体で支援体制を構築する責務を負う。災害は必ず起きる。その時、医薬品が届く状態を作れているかどうか、今後の体制整備が問われてくる。



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