自民党と日本維新の会による政権が誕生した。製薬産業が望むのは、日本市場を海外から見て魅力ある市場にすること。特に海外勢から評判の悪い薬価制度のルール、運用の見直しが課題だ。
その薬価制度だが、医療保険制度の一部であり、制度をめぐる議論は国内財政、国内医療と絡めて国内問題と捉えられている。しかし、局面は変わった。通商政策、国際産業政策的な視点も加味した議論、取り組みが必要だと考える。それがなければドラッグラグ・ロス問題が再び大きくなりかねない。日本の患者が世界標準の治療を受けられなくなる恐れさえある。
局面が変わったと考える理由は二つある。一つはグローバルインフレーション。現行薬価制度は日本のデフレ期の中で構築され、見直し、運用されてきたが、今は原材料、エネルギーコスト等の上昇が国際的に起こり、引き下げ一辺倒の薬価制度の運用は生産、流通に支障を来す一因となっている。
もう一つはトランプ米大統領の米国薬価の引き下げ。7月に米国薬価を他の先進国で提供される最低価格(最恵国待遇価格)に合わせるよう要請する書簡を欧米主要製薬企業17社に送付した。9月に米ファイザー、10月に英アストラゼネカが要請に応えた。今後も他社が続くだろう。
しかし、他の先進国で提供される薬価に合わせるとなると、低い薬価の国、つまり日本は最初の上市国として避けるという、後回しにする企業行動につながりかねない。
その懸念は既に日本の業界団体、製薬企業からも出ている。英国の財務相は「われわれは英国を製薬業界にとって魅力的な場所にしなければならない。その中には価格設定も含まれる」と発言したとも伝えられている(ロイター17日)。日本と欧州のいずれの市場が魅力的なのかという産業政策競争が始まる様相を呈している。IQVIAによる今後5年の世界医薬品市場の年平均成長予測では、英独仏5%超に対し日本は1.2%。日本市場は劣勢だ。
米国通商代表部は、日本政府に「革新的医薬品への度重なる薬価引き下げと透明性の欠如は米国の輸出を過小評価し、米国の貿易赤字を助長する政策として関心が高まっている」と牽制している。そのまま受けるかどうかはともかく、国内問題で片付けられる状況ではなさそうだ。
ドラッグラグ・ロスの解消には海外からの投資が必要だ。そのためには、予見性をもって投資が回収できるイノベーション評価の拡充、患者に薬を届ける安定したサプライチェーンが不可欠だ。
日本の承認審査は世界一早い。承認回数は増えた。承認から薬価収載までの期間も明確だ。それらが海外に知られているのか。薬価算定ルールの見直し議論が関係者の納得し得る透明性のある形で行われているのか。海外からの目も意識した議論が求められている。
















