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新型インフルエンザ、冷静な対応を

2009年05月01日 (金)

 日本から約1万キロ離れたメキシコに端を発する豚インフルエンザ(A/H1N1)。数日前にメキシコ国内でのヒト―ヒト感染例や死亡者発生の報道が伝わったかと思えば、瞬く間に、感染が世界的に拡大し、パンデミックへの懸念が現実味を帯びてきた。4月28日時点では、メキシコ国内だけで約2000人の感染の疑いがあり、死亡者も約150人に達している。

 発症原因特定や感染ルートなど未だ不明な点は多いが、こうしたヒト―ヒト感染の報告が相次ぐ事態を受け、4月27日に世界保健機関(WHO)は緊急委員会を開き、豚インフルエンザ流行の警戒水準をこれまでの「フェーズ3」から「フェーズ4」に引き上げた。これによりWHOが実質的に「新型インフルエンザ」と認定した格好となった。

 フェーズ4は「小さな集団でヒトからヒトへの感染が確認される状態」とされているが、1999年に段階別警戒レベルが導入されて以来、初めてのこと。それだけ事態の深刻さがうかがえる。WHOの緊急委員会後に発表した声明では、既にメキシコ国内外に感染が拡大していることから、封じ込めの段階は過ぎ、感染被害を軽減させる段階にあるとの見解を示した。

 WHOのフェーズ4宣言は、各国での新型インフルエンザ対策の指針ともなる。これを受け、国内でも4月28日早朝に、舛添要一厚生労働相が感染症法に基づく「新型インフルエンザ等感染症」の発生を正式に宣言。新型インフルエンザ対策行動計画に沿って、首相官邸の連絡室を対策室に格上げするなど、国家レベルで蔓延防止対策を進める段階に入った。

 2月に策定された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」によると、現段階は、第1段階(海外で新型インフルエンザが発生した状態)に当たる。その目的は、ウイルスの国内進入をできるだけ阻止し、国内発生に備えて体制整備を行うことにある。WHOによるフェーズ4宣言が行われた政府の体制強化として、今後、新型インフルエンザ対策本部の設置や、関係閣僚会議等で方策の決定・実施が行われることになっている。

 既に各自治体は、新型インフルエンザ対策行動計画に沿った対応を開始している。ポイントは抗インフルエンザ薬の流通体制の整備になろう。各都道府県でも、抗インフルエンザ薬の流通在庫の確認作業が進められており、次の段階(国内発生早期)では、医療機関や薬局、卸業者に対する適正流通の指導を行い、流通備蓄量が一定量以下になった時点で、備蓄在庫の放出などの措置がとられる。

 この新型インフルエンザウイルスに対して、タミフルやリレンザの有効性が明確に確認されているわけではない。また、病原性や感染力なども不明瞭だ。さらに日本とメキシコでは、公衆衛生上のインフラ整備の状況は少なからず違いがあるため、国民の健康や社会経済活動に及ぼす影響の予想は難しい。

 舛添厚労相は、国民に向けたコメントとして、▽正確な情報に基づく冷静な対応が大切▽メキシコ等の発生国への渡航回避の検討▽感染防止の基本であるマスクや手洗い、うがい、人混みを避けるという日常的な個人予防策が極めて重要――との見解を述べている。やはり、個人予防では、市民に最も近い薬局・薬剤師への期待は大きいはず。

 今後、積極的に新型インフルエンザ情報の収集を行うと共に、医薬品の専門家として一般家庭への適正情報発信が行えるよう、常に冷静な対応を望みたい。



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