今年度の入学生から2022年度版の改訂薬学教育モデル・コア・カリキュラムが適用され、新たな時代の薬学教育がスタートした。ところが、7月に政府が創薬力構想会議の中間取りまとめを踏まえた政策目標の一つとして、「薬学部・薬系大学院修了者のうち、創薬関連の仕事・研究等に就く人材のさらなる増加」を成果指標に打ち出したことが波紋を呼んでいる。
今回の施策では、アカデミア人材の育成(医学・薬学教育のあり方含む)として、▽創薬に貢献するための医療人材の養成(医学・薬学等)に向けて大学の教育プログラムの充実について検討▽次期コアカリ改訂に向けて、創薬につながる薬学人材養成のための教育内容について検討――することが盛り込まれた。
さらに施策の工程表では、今年度から次期コアカリ改訂に向け、創薬につながる薬学人材養成のための教育内容について検討し、26年度から改訂の検討作業へと進める計画を打ち出している。
国の創薬力強化に向けた施策で薬学教育に言及するのは異例だが、その問題意識は理解できる。薬学の根幹である創薬を担う研究者の輩出は、薬学部・薬科大学が解決しなければならない大きな課題だったからである。
しかし、今回の施策には唐突感が否めない。「臨床薬学」という教育体制に大きく舵を切った改訂コアカリが始まったわずか3カ月後、今度は創薬人材の養成に向けた次期コアカリの具体的なスケジュールが示される事態に、大学関係者から「どうなっているのか分からない」と戸惑いの声が出るのも当然だろう。
まだ現時点では不明なことが多いが、文部科学省の25年度予算概算要求では、創薬に貢献する医療人材養成の強化につながる博士課程プログラムを構築するための調査研究予算が新規で計上されている。これだけを見れば大学院の強化と受け取ることもできるが、6年制教育との関係や臨床薬学という教育体制の構築との整合性など疑問は尽きない。
8月に開かれた薬学教育学会大会では早速、創薬人材の養成方針が話題に上り、「大学が策定したディプロマ・ポリシーに基づき、研究志向を持った人材を育てていくべき」との声もあった。
最近では、私立大学で研究志向の取り組みを強化する動きも一部出てきている。薬系大学の使命を考えれば、国公立だけに創薬人材の養成を求めるのではなく、より研究志向の私立大学が自然と出てくることが理想だろうし、大学の自主性や差別化の観点からも望ましい姿ではないか。
ただでさえ、カリキュラムの過密化が懸念されている状況であり、おそらく次期コアカリ改訂の議論において、創薬人材の養成が入り込む余地は大きくないと考えられる。何よりも薬学教育の方向性がぶれることにより、学生に影響が出ることだけは避けてもらいたい。