きょう27日、自民党総裁選の投開票が行われる。総裁は次期首相になる。医薬品産業に関係する政策は最近、首相官邸が関与する形で、前向きに進められている。次の首相には、医薬品産業への今の追い風を止めることがないよう求める。
業界には「医薬品産業に対する国の見方が変わった。首相が公の場で日本を創薬の地にするとか、製薬を基幹産業にとか話すようになった」との声がある。「公の場」とは、7月に首相官邸で開かれた「創薬エコシステムサミット」のことである。
この場で岸田文雄首相は、製薬企業、スタートアップ等関係者47人を前に「日本を世界の人々に貢献できる創薬の地にしていく。政府がコミットしていくことを宣言する」と表明した。
一度は収束したドラッグラグ・ロスが再燃し、コロナ禍ではワクチン、治療薬開発でも遅れを取った。後発品を中心とする供給不安は収束が見えない。日本の製薬市場、地域医療、患者に大きな不利益が起き、対策は急務だ。
その対策の一つが2024年度薬価制度改革である。イノベーションの評価、安定供給支援が強化された。業界各社は前向きな行動を取るようになった。内資外資30社を対象に6月に行われた日米欧製薬団体の調査によると、イノベーション評価により新薬の開発計画を前向きに変更した社が8社あった。
少ないとの見方があろうが、改革から数カ月で計画変更を行うのは企業の時間軸で考えるとかなり早い。変更の可能性ありとの回答は16社に上る。計画変更に最も影響した改革項目は、小児薬の評価充実(20社)。長年進まなかった小児薬開発に光が差した。
これら追い風を、果たして総裁選の9人の立候補者は引き継ぐのか。各候補者の政策を読んだ。医薬品産業に最も多く言及していたのは、元厚生労働相の加藤勝信氏で、「物価に連動した薬価の見直し、創薬の推進と薬の安定供給」とあった。石破茂氏は「薬価制度の見直し」「医薬品の安定供給を実現するための原材料確保」を盛り込んでいた。
林芳正氏も「安定供給の推進」を明記。小林鷹之氏は「創薬産業の競争力強化」を掲げた。上川陽子氏は、バイオ、ヘルスケアを含む成長産業の育成。高市早苗氏は、経済安全保障の観点から「バイオ分野・事業化・普及」と打った。小泉進次郎氏は、製薬と明示していないがスタートアップ支援を掲げ、河野太郎、茂木敏充の両氏は、製薬に言及していないが、医療、社会保障のデジタル化に意欲を見せている。
具体性に欠けるが、医薬品産業に触れている。前向きに受け止めるにしても、医薬品産業は基本的に規制産業だ。産業政策の追い風を吹かせ続けるのは容易ではない。そのためには総裁選後、業界団体による政治・行政への不断の働きかけ、国民への啓発も欠かせない。