産業技術総合研究所セルフケア実装研究センターと香川大学病院の共同研究グループは、高齢2型糖尿病患者の、サルコペニアの有無による歩行特徴の違いを3次元動作解析によって明らかにした。足関節の運動範囲の減少が、サルコペニアを有する患者の特徴である可能性を見出したもの。この知見は、臨床現場でサルコペニアの早期発見を簡単に行うための評価手法開発に役立つことが期待される。
産総研では、光学式モーションキャプチャー装置などを用い、人の複雑な動きを計測して数値化し、3次元的に動作を解析する技術開発を進めてきた。また、健康状態の改善や健康寿命の延伸のために、日常的な動作である歩行動作に着目した解析を行っている。
今回、同研究グループは、産総研四国センターが保有する身体動作の計測設備・評価技術群の総称である「身体動作解析産業プラットフォーム」を活用し、65歳以上の2型糖尿病患者の歩行を計測・評価した。
実験では、香川大病院に外来通院している高齢2型糖尿病患者38人を対象に、光学式モーションキャプチャー装置を用い、歩行中の身体の位置座標を計測した。参加者には、はだしで約15mの直線路を約5往復、快適な速度で歩行してもらった。得られた身体の位置座標から、歩行周期中の骨盤、下肢三関節(股関節、膝関節、足関節)の運動範囲の平均値を算出した。
分析の結果、サルコペニアを有する糖尿病患者はサルコペニアを有さない患者に比べ、歩行速度や歩幅の低下に加え、歩行中の足関節の運動範囲(矢状面)が狭いことが明らかになった。また、歩行速度の影響を統計的に調整(共分散分析)した上でも、サルコペニアを有する患者では、足関節の運動範囲が明らかに小さいことが確認された。
これは、単なる歩く速さの違いでは説明できない、サルコペニアを有する糖尿病患者の運動機能の低下を示しており、関節の運動範囲そのものが身体機能低下を表す新たなデジタルバイオマーカーとして有用である可能性を示すものだった。
今回の成果から、高齢2型糖尿病患者において、サルコペニアの有無による歩行特徴の違いを明らかになった。
同研究グループは今後、今回得られた歩行特徴データを基盤に、スマートフォンなどの簡易なデバイスで取得される映像やセンサデータから、関節の動きや歩行パターンを推定・評価できるシステムの開発を進めていく。これにより、産総研の施設のような専門的な設備を用いなくとも、医療現場や自宅などで容易にサルコペニアなどの早期発見ができるように研究を進めていく予定にしている。
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