テルモは8月28日、都内で記者会見を開き、同月23日に行った英国オックスフォードに本社を置く「臓器保存デバイス」のイノベーターであるOrganOx社(オーガノックス)の完全子会社化の契約締結について、その背景と今後の展望を説明した。鮫島光社長CEOは、「今回の買収はテルモグループにとって、戦略的かつ不可欠なもの」とすると共に、「新規事業として臓器移植関連領域に本格参入することは、“非連続的な成長”を実現するための重要なステップになる」と買収の意義を語った。

オーガノックスは、臓器移植保存デバイスの開発・製造・販売を手がける革新的な企業で、2008年にオックスフォード大学からスピンオフする形で設立された。鮫島氏は、「同社の創業メンバーのコアはドクター2人。従って、かなり純粋に医学的・科学的に『患者さんを救いたい』を会社のコアにおいている」ことを強調。こうした姿勢が、今回テルモの買収につながった。

会見する鮫島社長CEO
オーガノックスの主力製品は、肝臓用の常温機械灌流(NMP)に対応した先進的な臓器保存デバイス「metra」。臓器を冷却して移植用肝臓の損傷を抑える従来の手法とは異なり、NMPなどの体外機械灌流では酸素や栄養を含んだ保存液を体温に近い温度で臓器に循環させることで、従来よりも長期間の保存が可能となっている。また、保存中や輸送中でも臓器の状態をリアルタイムで評価することができ、機能が低下した臓器の移植を回避し、移植の成功率を高めることや、今まで廃棄されていた臓器の有効活用に貢献することなども期待されている。
また、早期移植は需要に対し供給が追いつかず、待機期間中に救えない患者も多いこと、臓器の保存・機能評価に課題を抱えていることから、ドナー数の使用率も限られいるといった課題がある。「metrra」は、米国では12時間、欧州では24時間の保存が可能で、ドナー数の拡大と移植用肝臓の使用率向上が図れる。21年の米国上市後、早くも1年で調整後EBITDA黒字化を達成、売り上げは22年が18億円、年に47億円、24年には107億円と100億円を超え、今後10年で1000億円規模の売り上げを視野に入れている。
2017年から両者は良好な関係築く
テルモは17年から、「metra」に使われているCDIシャントセンサーを供給しており、オーガノックスと技術の知見を深め、25年3月にはコーポレートベンチャーキャピタルのテルモ・ベンチャーズが出資を行い、同社は良好な関係を築いてきた。
今回の買収によって、テルモが長年にわたって培ってきた技術力と専門性、オーガノックスの革新的技術のノウハウが融合されることで、世界中の待機患者に対する移植機会拡大が可能となり、臓器不足という深刻なアンメットニーズに対しグローバルに貢献することが期待されている。
鮫島氏は、「臓器移植という高成長領域への本格参入と、高収益モデルの獲得は、テルモの企業価値を大きく引き上げることができるのに加え、既存事業とのシナジーを生かした新たなソリューション創出も可能となり、テルモグループの価値最大化に寄与する買収案件と確信している。この買収は、テルモの未来を切り拓く、なくてはならない一手であり、次の成長ステージへの扉を開くものである」と力強く語った。
パイプライン拡大にも取り組む
今後のパイプライン拡大にも取り組んでいる。現在、肝臓用デバイスの次世代機として、「metraL」を開発している。「metra」を小型化し、輸送の煩雑さを軽減し、空輸に対応するなどさらなる使用拡大に取り組んでいる。さらに、件数の多い腎臓移植領域への参入も計画している。
腎臓は、臓器移植の過半数を占める大きな市場で、進呈ドナーからの移植も進んでいるが、一方で、回収した臓器の廃棄率が高いことが課題になっている。「metra」のリアルタイムモニタリングと自動制御機能を生かして、移植用腎臓の廃棄率低減に寄与することで、貴重な医療資源の有効活用をすることにつながる。鮫島氏は、「30年頃の実用化を目指して進めており、既存のmtraビジネスを次のステージに進めていきたい」とする。
今回の買収の狙いは、非連続な成長を実現すること。オーガノックスとの統合は、テルモに高成長の事業領域をもたらし、そこでは広範な製品、技術のシナジーが生み出され、将来的なソリューション提供の幅もますます拡大していく。なによりも、オーガノックスの持つ技術・製品は、臓器移植における大きな課題を解決するのに役立っている。
鮫島氏、「それはテルモの進むべき道筋に合致するもの。ドナーから提供された希少な医療資源である臓器を、より良い状態に保って、患者に届けること。これはテルモが掲げる“Our Promise”の体現であり、患者への揺るぎない約束。今回の買収は、テルモがこれまで培ってきた技術と知見を生かしながら、未来の医療に貢献するための挑戦である。臓器移植分野への参入で、より一層高度化されたポートフォーリオを築いていけると確信している」とした。
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