10日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会は、製薬業界団体が大詰めを迎える次期薬価制度改革を前に意見表明する機会だった。この中で新薬メーカー側の日米欧製薬3団体が触れた米国政府の最恵国待遇(MFN)価格政策による日本市場への悪影響の懸念に対し、議論らしい議論がなかった。残念である。
MFNでは、参照国の最低価格に米国内の価格を合わせると言われる。そのため、先進国の中で価格水準が低い日本市場で上市すれば、自社の医薬品の価格が必要以上に下げられかねない。海外企業だけでなく、海外に展開する日本企業もまた日本市場での開発や上市を後回しせざるを得ないとの声は強まってきている。いわゆるドラッグラグ・ロスの再々燃が懸念される。
中医協はそのような国際問題の議論の場ではなく、日本の医療保険制度、その中の薬価制度に関する議論の場ではある。しかし、保険適用される新薬は、製造販売企業の国籍を問わず世界で開発され、日本の医療従事者、患者もまた世界標準の治療の恩恵を受けている。中医協が検討した政策の後押しもあってドラッグラグ・ロスの改善に向けた動きも見えてきている中で、米国のMFN政策はその動きを止めかねない。その懸念の声が今夏には業界関係者から上がっていたことからすると、部会も日本の薬物治療に影響する差し迫った問題と捉えるべきだと考える。
MFN後の製薬企業の動きとして10日の部会には米国研究製薬工業協会(PhRMA)から、日本法人とグローバル本社がMFNに関する議論を開始した社が14社中10社に上ったとの調査結果が報告された。11月下旬までの2カ月で2社増えた。10社中6社は日本での価格の見直しを求められたと回答した。
具体的には「MFNの影響を避けるため、目標薬価の下限が引き上げられた」「近々薬価収載交渉が始まる新薬において、目標薬価を下回る場合は薬価収載を見送る可能性が示唆された」「MFNの動向が見えるまで収載を遅らせる判断を行った」といった回答が寄せられた。そのほか、「米国市場への影響度合いが見えてくるまで、新製品の価格戦略やスケジュールに関する議論開始を延期している」社もあった。
日本の医療従事者、患者が世界標準の治療の恩恵を受け続けるには、国内外から投資を避けられないようにすることが必要だ。予見性を持って投資が回収できるイノベーション評価の拡充、患者に薬を届ける安定かつ強いサプライチェーンが不可欠だ。
日本製薬工業協会の宮柱明日香会長は10日の部会で、MFNによる懸念を伝え「革新的医薬品の評価や特許期間中の薬価維持の充実の観点から、次々期薬価制度改革を待たず、期中での機動的な対応をお願いしたい」との意見を表明した。「期中の機動的な対応」――。部会、厚労省には銘記しておいてほしい。

















