東京薬科大学薬学部と名古屋工業大学生命・応用化学類、大阪大学大学院工学研究科の共同研究チームはこのほど、膜蛋白質を「水和イオン液体(Hydrated Ionic Liquids)」に直接溶解させ、これまで困難とされてきた構造保持と機能維持を両立させる新技術の開発に成功した。同技術は、創薬や次世代バイオセンサー開発を大きく前進させる可能性を秘めている。研究成果は、国際学術誌『International Journal of Biological Macromolecules』に掲載された。
今回の研究では、液体の塩である“イオン液体”にわずかな水を含ませた「水和イオン液体(Hydrated Ionic Liquids)」を用いることで、膜貫通型蛋白質(TehAおよびバクテリオロドプシン)を直接溶解するだけで、構造と機能を保持した安定化に成功した。
膜蛋白質はその不安定性から、従来の緩衝液中では取り扱いが困難だったが、今回の研究では水和イオン液体の構成イオン(カチオン・アニオン)や含水率が構造保持と安定性に大きく影響することを明らかにした。
特に、コリニウムリン酸二水素を用いた水和イオン液体では、膜蛋白質の高次構造を維持したまま溶解が可能で、熱変性温度を20℃以上向上させることが確認された。
一般的に、熱変性温度の向上により、熱的安定性や長期安定性は改善されることが知られている。この技術による構造的安定性の向上は、極めて顕著だった。また、含水率の違いによって蛋白質の構造や安定性に大きな変化が生じることから、生体膜内に存在する水分子の数や性質が膜蛋白質の機能維持において重要な役割を果たしていることが示唆された。
さらに、光駆動型プロトンポンプ能を持つバクテリオロドプシン(bR)に対してレーザー照射を行い、プロトン輸送に関連する中間体形成を観察することで、機能性の維持も実証された。加えて、レーザー照射による光退色に対して約10倍の耐性を示すなど、機能的安定性の向上も確認されている。
同研究で確立した膜蛋白質の安定溶解法は、従来その取り扱いの困難さが障壁となっていた膜蛋白質研究を大きく加速させることが期待される。特に、膜蛋白質を標的とする創薬スクリーニングや、その機能を活かしたバイオセンサー開発、膜蛋白質の構造解析の効率化に資する有力な選択肢として、幅広い応用展開が見込まれる。
同技術は、創薬におけるTPP(Target Product Profile)の観点からも高い実用性を有している。例えば、膜蛋白質の長期保存性や熱安定性(20℃以上の向上)は、製剤化や輸送時の品質保持に直結し、経時安定性の向上も図れる。また、膜蛋白質の安定な機能保持は、機能性評価やスクリーニングの再現性向上が期待される。
また、基礎研究にとどまらず、創薬プロセスの初期段階(ターゲット検証・スクリーニング)から後期開発(製剤化・品質管理)までを見据えた応用展開が可能で、膜蛋白質を標的とする医薬品開発におけるゲームチェンジャー技術として、生命科学・医療・工学分野における革新的研究の推進に寄与することが期待される。
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