患者の声を薬の研究開発や治療方針に反映する動きが、日本でもようやく本格化しそうだ。患者と医療者、製薬企業が協働すれば、薬も治療も良いものになる。これはもはや理念ではなく、実践の時である。さらに研究開発から臨床まで、患者の声を有機的に生かし、より良い薬と治療を生み、患者の治療・生活の質向上につなげるエコシステムとして構築してほしい。
患者の声を臨床研究などに取り入れる活動はPPI(患者・市民参画)と呼ばれる。英国で始まったとされ、患者を「意見を聞く相手」ではなく医療を共に作るパートナーと位置づける考え方である。
日本では2019年、日本医療研究開発機構(AMED)が「PPIガイドブック」を作成し、医薬品医療機器総合機構(PMDA)は患者参画の議論を本格化させた。患者との直接対話に極めて慎重な製薬企業や業界団体も近年、取り組みを公表するようになり、機運が高まっている。
医薬品開発は医学的合理性を重視するあまり、患者が求める価値を十分反映してこなかった。近年は、患者の求めるものと医学的評価指標が必ずしも一致しないことが認識され始めている。
例えば、歩く距離を評価指標にされても、座位をいかに楽に保つ方が重要との声がある。評価指標に対し「それで家事ができる時間がどの程度増えるのか」との質問に答えられなかったとの話も聞く。
医療者は治療を中心に患者の生活を捉えがちだ。一方、患者は生活の中に治療を位置づける。こうした視点の違いを踏まえ、患者の声を生かした研究開発を行い、評価指標づくりを試みる企業が国内外で出てきている。
薬の承認審査への反映はPMDAが検討している。医学的な主要評価項目に加え、副次的・探索的評価項目として患者視点を取り入れる考えや専門協議への患者参加も議論されている。
治療の場面では、患者と医療者の共同意思決定(SDM)が重視され始めた。例えば癌治療で、生存期間の延長を重視しがちな医療者に対し、状態が良ければ現状維持を望みがちという患者との違いが背景にある。副作用が強くても延命を望む患者がいる一方、副作用を軽減しながら仕事を続けることや家族との時間を持つことなど、自分らしい生活を送ることを重視する患者もいる。患者と医療者が対話し、治療生活で重視することを取り入れて治療方針を決めるのがSDMである。
実践にはまだ課題がある。患者が治療法を学ぶために必要な薬の情報を十分に得られる環境整備や、患者視点の評価指標を取り入れた臨床試験データの充実などだ。
患者の声を生かしたデータを起点に、研究開発計画や承認審査、薬の説明文書、疾患啓発、治療方針を変えていく。こうした患者、企業、医療者の協働によるエコシステムこそ、医療の価値や信頼を高める源泉になる。





















