最近、増加の一途を辿っている男性骨粗鬆症の実態が、先に開かれた第8回日本骨粗鬆症学会で、吉村典子氏(東京大学病院22世紀医療センター関節疾患総合研究講座)から報告された。「骨粗鬆症は女性の病気」と捉えられ、男性骨粗鬆症はあまり注目されてこなかった。しかし、男性骨粗鬆症の予後は女性よりも悪いと言われ、年間2万5000人程度の新規罹患者が発生している。吉村氏らは地域のコホート調査を行い、その実態を明らかにした。
骨粗鬆症の疫学調査としては、代表的な骨粗鬆症性骨折である大腿骨頚部骨折に関して、1987年から5年ごとに4回にわたって全国調査が行われている。2002年に行われた厚生労働科学研究班の調査によると、大腿骨頚部骨折発生数は11万8000人と、過去3回の調査結果よりも新規発生患者が増えていることが示された。
各年代別の危険度をみると、男性は女性に比べて約半数で、特に高齢者ではその差が明らかだった。また、患者数を見ても女性の方が圧倒的に多く、いずれの調査でも男性は女性の約3分の1以下と考えられている。しかし02年の調査では、年間2万5300人の男性が新たに大腿部頚部骨折を起こしていた。これは15年前に比べて約2倍の増加に当たることから、吉村氏は「女性の3分の1以下とはいえ、決して楽観できる数字ではない」とした。
そうした疫学調査結果をもとに、吉村氏らは骨粗鬆症に関連する骨折の中で、最も頻度が高い脊椎椎体骨折について、和歌山県の太地町で、89年に設定したコホートから、40079歳の各年代50人ずつ計400人を選んでレントゲン撮影を行った。
日本骨代謝学会の診断基準を判定法として、脊椎椎体骨折の有病率を性別、年齢別にみたところ、40049歳で男性4%、女性2%、50059歳で男性15%、女性10%、60069歳で男性22%、女性14%と、60歳代までは男性の方が女性よりも高かった。一方、70079歳では男性18%、女性45%と、高齢女性になると脊椎椎体骨折の有病率が急上昇し、さらに複雑骨折の割合が増加することが分かった。
この集団を追跡して10年目に調査に参加した299人に関して、新規骨折の累積発症率を年代別にみたところ、男性では40歳代2.9%、50歳代10.3%、60歳代13.2%、70歳代30%との結果で、女性では40歳代2.1%、50歳代6.5%、60歳代23.1%、70歳代42.3%と、60070歳代の女性で明らかに累積発生率が高くなっていた。このことから、脊椎椎体骨折についても、男性の発生率は女性より少ないものの、決して楽観できる成績ではないとした。