日本で「治験の空洞化」が問題視されたのは、1998年に新GCPが全面施行されたことを契機としていた。医療機関に新GCPを満たすだけの臨床試験実施体制が整っていなかったことが大きな要因だったともいえ、被験者が確保できずに臨床試験が大幅に遅滞して、メーカーは海外での臨床試験に向かった。
日本のCROは、これ以前の90年代初頭には既に存在していた。臨床試験だけではなく、医薬品開発に関するあらゆる業務を受託できるまでに成長して、今や開発型製薬企業の戦略的パートナーとなった。金融不安に端を発した世界的な不況を尻目に、CRO市場は二桁成長を続けてきていたが、ここにきて、業界は大きな転換期を迎えたと、日本CRO協会の中村和男会長は指摘する。
従来型のコストカット戦略から、医薬品ライフサイクルマネジメント戦略への移行により、大型品目以外の臨床試験依頼本数が増加し、市場が拡大すると見ているようだ。また、アジアンスタディなどの国際化への対応、急速に進歩しているIT化への対応、SMOと一体となった生産性向上への取り組みが急がれていることを強く訴えている。
一方の治験実施施設を管理・支援するSMOの事態は深刻だ。CROに比べて企業規模が小さいという経営基盤の基本的な脆弱さがあるほか、治験コーディネートという主要業務を担うCRCのスキルレベルが現場で問題とされていることが、成長していく上での大きな障壁として立ちはだかっている。
この現状を深く認識している日本SMO協会は、約2500人に達しているSMOの(協会所属)CRCがプロとしての自覚と誇りを持って、研修や経験に裏づけされたスキルとノウハウを発揮していくため、初となるCRCフォーラムを開催し、意気高揚を図ったところだ。
臨床試験に関連する学会をはじめ、団体・組織はほかにも数多く存在している。被験者照合システムを持つ臨床試験受託事業協会や、共同治験を受託するエスエムオーネットワーク協同組合などが積極的な活動を展開しているが、最近では、日本臨床試験研究会が創設されている。臨床試験や臨床研究に携わる幅広い専門家の知識と技術の向上を図って、日本の臨床試験・臨床研究の推進と質向上に寄与することを活動目的として掲げている。職種の枠を超えた情報交換などを行っていくことにしており、年明けには、第1回の学術集会も開催する予定だ。
世界の中で、本当の新薬を開発できる能力を保持しているのは、日米欧の3極だけである。日本のメーカーが開発した新薬が、欧米などに遅れて日本に上市されるのは、誰が考えても納得いかないだろう。アジアの方が早く、安く実施できることは事実だが、21世紀においても画期的新薬が開発できる基盤を維持していくため、日本での臨床試験・臨床研究が再び空洞化することだけは、何としても避けなければならない。
そのためにも、メーカー、医療機関、臨床試験・臨床研究を支える全ての関係者が一致団結し、日本の医薬品開発を加速させていくために、力を注いでいかなければならない時代に突入したことを認識すべきだ。