中外製薬は、競合の激しい糖尿病領域に本格参入する。2010年にも、GLP‐1アゴニスト「タスポグルチド」、SGLT2阻害剤「CSG452」の2化合物が、第III相試験入りできる見通し。ロシュグループとの連携によるシナジーを生かし、重点とする腎領域の豊富な経験を背景に、開業医市場の強化を目指す。
同社は、「癌、腎、骨・関節」を研究開発の重点領域と位置づけてきたが、2型糖尿病患者の世界的な増加を背景に、腎領域の強みを生かして開業医市場をさらに強化できると判断。GLP‐1アゴニスト「タスポグルチド」、SGLT2阻害剤「CSG452」の2化合物を投入し、競合の激しい糖尿病領域に本格参入することを決めた。
主力の腎性貧血治療薬「エポジン」をはじめ、腎領域を重点領域としてきた同社にとって、糖尿病領域への参入は、増加する糖尿病性腎症への対応に優位性を発揮し、開業医市場を強化できるメリットがある。また、ロシュとのアライアンスで研究基盤を共有化し、ロシュグループとして国際共同治験を実施できるのみならず、血糖自己測定器を展開する診断薬事業の「ロシュ・ダイアグノスティックス」とのシナジーが見込めるメリットも大きいと判断した。
開発を進めるタスポグルチドは、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンの天然型GLP‐1に対し、2箇所のアミノ酸を改変して分解されないよう耐性を持たせると共に、亜鉛を加えた製剤とすることで、週1回投与を可能にしたGLP‐1アゴニスト。2型糖尿病患者を対象とした海外第II相試験では、HbA1cと体重の明らかな減少が認められたことから、現在、ロシュが8本の第III相試験を進めている。ただ、第II相試験では、用量依存的に悪心、下痢など消化器症状の発現が増加したため、第III相試験では漸増投与の軽減措置が取られている。
国内では、中外製薬と帝人ファーマが共同で第II相試験を進めており、来年にも第III相試験入りできる見通し。タスポグルチドは、健常人の単回投与試験の結果、日本人患者の有害事象発現頻度が欧米人と異なる可能性が考えられたため、国際共同治験に参加せず、国内単独で開発を進める方針としている。上市後は、帝人ファーマとの2ブランド2チャンネル体制で販売する予定だ。
GLP‐1アゴニストの開発競争は、国内ではノボノルディスクの「リラグルチド」が承認を了承され、イーライリリーの「エキセナチド」が申請段階。サノフィ・アベンティスの「AVE0010」が第III相試験段階と競合が激しいが、タスポグルチドは週1回投与の第二世代GLP‐1アゴニストとして、天然型と差別化を狙う。
一方、CSG452は、中外製薬が創製した選択的SGLT2阻害剤。07年にロシュへ導出し、共同開発をスタートさせている。現在、日本を含めた国際共同第II相試験が進められているところで、10年には結果を得て、第III相試験入りする予定。
SGLT2阻害剤の開発も世界的に競合の激しい領域で、国内ではアステラス製薬の「ASP‐1941」が第III相試験段階と先行。ブリストル・マイヤーズとアストラゼネカの「ダパグリフロジン」、日本ベーリンガーインゲルハイムの「BI10773」が第II相試験段階と横並びの状況にある。同社は、SGLT2のトランスポーターを阻害する主作用は各社共通として、化合物の特徴で差別化を図る方向で検討を進めていく。